Special thanx...(*^^)v
□信じがたい現実
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カガリは肩越しに素早い一瞥を投げると足早に階段を下りてワインバーに入った。
店内は薄暗く、ランチタイムの客で込み合っている。ポールの姿が見えない。
ビジネススーツの男達の群れの向こうを見渡すには、カガリは背が足りなかった。誰かに見られて、私が誰かと気づかれるのが怖かった。
奥の隅にポールの髪が見えた時にはホッとした。
『遅かったじゃないか!』
『ごめん。抜けられなくて……』
カガリは腰を下ろしながら、もう一度、知った顔はないかと、不安な目で辺りを見まわさずにはいられなかった。
『大丈夫。町の反対側に来ているんだから』
カガリは金の髪の頭を傾げ、顔を強張らせた。
『あそこの隅の男の人……私を見ていないか?』
『大抵の男はカガリを見るよ。君は美人だからね』
ポールはカガリのほっそりした手を取った。
『そうなのか?』
褒められることに慣れていないカガリは、恥ずかしそうにポールを見上げた。
カガリの着ているデザイナーズスーツと妙にそぐわない仕草だった。非の打ち所のない顔にはウットリとした表情が浮かんでいる。
翼のようにはね上げた艶やかな金の髪がその顔を包み、金の瞳は耳につけたピアスの宝石に負けないほど輝いていた。
『僕のアパートに行こう』
ポールはカガリのふっくらした下唇を指で撫で、カガリの肌をほてらせた。
『行けない……今はまだ駄目なんだ……でも私の気持ちはわかってくれるだろ?』
ポールの素敵な顔が厳しく冷たくなるのを見て、カガリの心に不安感が募る。
『君だって僕の気持ちはわかっている癖にミセス・ザラ。僕は君の夫に嫉妬しているんだ!』
『ポール今はまだ……お願いだ……』
『君は夫が町にいない間に僕とちょっと遊んでいるだけな気がしてくる』
カガリの目が悲しそうに影がさす。
『ポールを愛してるんだ……』
『それなら、いつになったら君は彼に離婚を切り出すんだ?』
カガリは青ざめた。
『もう少しだと思う……』
『彼が一月に一晩位しか君とひとつ屋根の下で寝ないことを考えれば、僕は来年の今頃もまだここで君を待ってるかもしれない。たぶん君はあの卑劣な男を愛していて……』
『そんなのあり得ない!』
カガリは両手を固く握りしめた。