Slll・novel

□年下の努力目標
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『とーびーおっ!!』

「うおっ!?」


衝撃と背中に当たる柔らかい感触。

これは間違いなくあの人だ。


「離してください!!先輩!!ここ一年の棟の廊下ですよ!?」

『えー、いいじゃないそんなの。てかせっかく彼女様が遊びに来てやったのにもうちょっと喜びなさいよ!』


俺の背中に体重を預けたまま先輩はわーわーと主張している。

さっきも説明した通りここは一年の廊下である。

当然、同級生からの視線が痛い。

それに…その…っせ、背中の感触が…ああ、どうしてこうこの人は無防備なんだ…

誰でもいいから助けて欲しい、月島以外で。

なんて思っているときに限って奴はやって来る。


「…王様、道のど真ん中で何やってんの」

「あ!影山の彼女さん!こんにちは!」

『ツッキーに山口くん!こんにちは』


運悪く月島だけでなく山口も来てしまった。

いや、月島がいれば山口も当然のことか。

そんな風に思案しているうちに背中の方で動きが感じられた。


「何してるんですか!!降りてください!!」

『いや、だって飛雄ちゃんが構ってくれないからさー。ほら、手で支えてくれないと落ちちゃうわよ』


器用にも背中によじ登ってきておんぶを要求してくる。

さすがに落とすわけにもいかないので手で支えると月島が微かに笑う声がした。

目の前の月島を睨み付けてやると奴は意地悪そうに顔を歪めて笑いをこらえる。


『よし、ツッキーと山口くんにも会えたし帰るわ』

「じゃあ降りてください」

『は?何言ってんの。このまま三年の教室まで送ってもらうに決まってるじゃない』

「は!?俺一年ですよ!?」

『それが?』


いくら王様と呼ばれる俺でも(自分の意思じゃねぇけど)三年の棟に行くのは緊張する。

がしかしこの人はいとも簡単に受け流しやがった。

目の前の月島がウザくて仕方がない。


「そうですか。先輩、お勤めご苦労様でした。そこの王様でよければいくらでも交通手段に使ってやってください」

『あら、そう?ありがと!よし、行け飛雄!!』

「…仕方ないですね」


背中の向こうから月島が笑う声が聞こえる。

後で覚えてろよ…



先輩の温かみを感じながら階段を上る。

俺の意思で人通りの少ない道を通ってきたのでここに来るまでに多くの人の目に触れることはなかった。


『飛雄』

「なんですか?」

『降ろして』


まさかの命令である。

しばらくフリーズしていると、降ろせと再び命令が下ったので降ろす。


『…抱き締めて』

「はっ…!?」

『いいから』


さっきまでの上機嫌はどこへ行ったのやら不機嫌な眼で睨まれた。

自分から抱き締めるのは苦手だけど精一杯頑張って、どうにか腕のなかに収めた。


『飛雄は…あたしが嫌い?』

「なっ…どうしてそう思うんですか」

『だって飛雄、会いに行ったら拒絶するし、今だって抱き締めるのに戸惑ったし…。それが照れてるからって分かってても辛いよ』


俺はこの人のことを大切に思って優しくしてきた。

それが一番いいことだと思って。

でもそれは違ったみたいで、この人は俺のその態度に不安を感じていた。


「すいません…。俺ももっと勇気出さないとって思ってたんですけどできなくて…。不安にさせてたとか情けないです」

『…分かって努力しようとしてたなら許す』

「はい。…じゃあおんぶは無理ですけど…手、繋いで教室まで帰りますか?」

『そうする』





年下の努力目標
(目指せバカップル!!)

(はぁ!?バカップルとか嫌ですよ俺!!)

(おぉー、帰ってきたなバカップル〜)

(菅原!!聞いてよ!!飛雄ってば自分から手繋ごうとか言っちゃってさ!!何これデレ期ってやつ!?)

(よかったなー。影山も大変だな)

(…うっす)

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