Slll・novel

□2つ以上は難しい
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「ねぇ。手、出してみて」


そういうと彼女は少し顔を曇らせて渋った。


「出しなさい」

『嫌』


頑固な彼女のことを見越して、手をつかんで無理やり引っ張った。

案の定、その手は傷だらけの豆だらけだった。

その手を撫でると少し痛そうに顔を歪めた。


「この傷はどうしたの?」

『…今日、参考書で切った』

「こっちは?」

『昨日、キャンバス剥がしてたら怪我した』

「この豆は前からあったやつだね」


ひとつひとつ列挙しながら彼女の手の傷の数を数えた。


「この間よりも3つも増えてる。無理はダメって言っただろ?」


こくり、と頷く顔には反省の色が見えた。

けど多分明日にはまたひとつ増えるんだろうなぁ、なんてのんきに考える。

のんきなのはこの傷が俺にいい影響を与えてくれるからかもしれない。

いつもと同じように傷の数を数えて、そしてその傷にキスをした。

夜の帰り道のど真ん中でこんなことをしているなんて端から見たら奇怪な光景だろうけど気にせず続ける。

そして最後に指先にキスを落とした。


「まったく…無茶するんだから。受験頑張りながら部活もギリギリまでやりたいとかホント無茶苦茶だよ…」

『それは孝支も一緒。…むしろ孝支の方が無茶苦茶』

「う…。それはそうだけど…」


ついこの間俺は三年であるにも関わらずインターハイ予選敗退後も春高を目指して部活を続けることに決めた。

確かに文化部と運動部じゃ苦労の量が違う。


『…孝支も無理してる』

「え?」

『この痣、この間までなかった。中指、突き指してる。紙で切った跡もある』


さっきの俺と同じように傷の数を数えていく。

そして俺の手にぎこちないキスが落とされた。

耳まで真っ赤にしながら頑張る姿がかわいくて思わず抱きしめた。

突然のことに驚いたのか彼女は俺の腕の中でもぞもぞともがいている。


「やべ…超可愛いべ…」

『孝支、苦しい…』

「…ゴメンな。無理するなって人には言うくせに自分はやってて」

『無理しても別にいい。けど隠さないで…』

「うん」


なんとか俺の腕から脱出した彼女は俺をまっすぐに見つめてきた。


『ウチ、孝支のこと尊敬する』

「俺も、尊敬してる。けど無茶はなしな」

『うん。…じゃないと心配で他のことが手につかない』

「!!…あ〜、もうっ!可愛すぎだべ!」


込み上げる愛情の行き場を探して彼女の頭をなでなでした。

髪の毛がぐしゃぐしゃになるまでひたすら撫でた。

日向や影山たちとは違う柔らかくてさらさらでいい香りがする髪のせいで止まらなくなってまた抱きしめた。

抱きしめた体は暖かくて安心して、少し落ち着いた。

体を離してもうひと撫でしてから微笑みかけた。


「好きだよ」

『…ウチも好き』

「キスしても、いい?」


再び真っ赤になりながらも小さく頷いたのを確認して、今度は唇にキスをした。

指先にするのは平気なのに唇はなんだか緊張する。

少し震えてしまったけれど彼女も同じようで、こんなところまで気が合うなんてと妙に嬉しくなった。

目を合わせて、また微笑んで、手を繋いだ。


「よし、帰るべ!明日も頑張るぞ!」


そう高らかに宣言して俺達は再び歩き始めた。





2つ以上は難しい
(尊敬と同じくらいの愛をあなたに与えたい)




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