Slll・novel

□その愛は天に背いた。
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身分だとか、立場だとか
昔っからそういうものには、心底吐き気を覚えるくらいに嫌悪していた。

幕府の犬と呼ばれる真選組なんていう、まさしくそういう俺の嫌ェなもんを惜しみもなく詰め込んだような仕事は、近藤さんがいなけりゃ頼まれてもやらなかっただろうと思う。
(いや、頼まれたとしたら余計にやりたくなくなってた気もする。)


近藤さんがいるから
俺はあの人を守るためだけに生きていてェし、その為なら犬にでも何にでも甘んじて受け入れるくれェの覚悟はある。


近藤さん、近藤さんの為にと姉ちゃんを武州に置き去りにしてきたほどに近藤さんの為に生きてきた俺がなんの因果か、




愚かにも、その近藤さんを裏切るような奴に惚れちまったんでさァ





「なにしてるんでィ、そんなとこで…」

『!!!総悟くん…!!!』



屯所に生えている木の枝の上でにうずくまるみてェに座り込んでるのは、攘夷志士としてそこそこ名が通っている女

敵地でそんな丸腰で座りこんで、こいつはバカなのか
いや、バカだった。



細い髪が風に揺られて、俺を見つめながら目を細めて笑う彼女は攘夷志士なんかには見えなかった。

そう、ただの、俺が惚れた女





『意外となんとかなるもんだねぇ。ミントンしてる人もいたけど全然気付かれなかったよ!』



山崎…
お前はもう警察は無理でィ
プロのミントン選手になることをお勧めすらァ

影が薄いことだけが取り柄の男を思い出しながら俺はゆっくりと視線を彼女に戻した。


「………で、どうしたんでィ?突然…、こんなとこまできて…」


当然ながらの問い掛けであるが、何となく、彼女の表情が曇った気がした。

なんだなんだ。
さっきまで随分と晴れてたってェのに、突然雲行きが怪しくなってきやがった。


薄暗く陰ってしまったこの辺りは、見事に彼女の表情を隠してしまっていた。



『う、うん…。あのね…』


意を決したように息を大きく吸い込むと一気に吐き出すようにこう捲し立てた。

『あのっ、総悟くんっ、あの…、あ、明日討ち入りに行くって本当…?わ、ああああ、ちがうの!これは別に偵察とかじゃなくてですね…!その…』


慌てたように弁明をしだす彼女
だけどやはり、何処と無くこいつの表情からは暗さが読み取れた。


「あぁ。ほんとでさァ」

『っ!!!!そ……、そうなんだ…』


そっと視線を逸らしたこいつは何を考えているのかサッパリわからねェ
女って奴ァ、みんなこうなのか、それともこいつが特別わからねェのか今一判断できねェが。

まぁ、普通なら真っ先に斬りつけて捕まえねェといけねぇってーのに、こんなわけのわからねェ感情をこいつに抱いちまってる俺の方がおかしいですがねィ


『その討ち入りって…、やっぱりっ、総悟くんも…行くの…?』


うっすらと涙を溜めたその翠の目
たまらなく愛しい

俺はフッと口角を上げると、こいつの白い白い頬を優しく撫で上げた。
僅かに彼女の頬が色付く。


「心配ねーや。ちゃんと生きて帰ってきまさァ。安心しなせェ」











もしもこの時ちゃんとこいつの顔に気付いていれば、こんなことにはならなかったんだろーか






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