Slll・novel
□愛しのツンデレラ
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今日は珍しく野球部がオフだから久しぶりに倉持とデートができる。
昨日の昼休み、倉持が「明日オフだからどっか行こうぜ」と誘ってくれた。
それに対していつものように『暇だから別にいいけど』と返事をした。
帰ってから勢いよくクローゼットを開け放ちあれでもない、これでもないと今日着ていく服を考えることができるなら、その気持ちを本人に直接ぶつけてやれと思うができないのだ。
あたしの性格上仕方のないことだ。
まあ要するにすごく嬉しい気持ちのまま迎えた今日。
普段はツインテールの髪を緩く巻いて下ろしたし、あたしが持ってる史上最高にかわいいワンピースを着た。
唯一の不安要素はこの間買って、今日おろしたてのミュール。
靴擦れしなきゃいいんだけど…
「よう。待ったか?」
『いや、別に?』
「ヒャハ、そこは待ってないよ、だろ!」
『悪かったわね。生憎あたしにそういう優しさはないのよ』
「知ってる。じゃあ行くか…あ」
歩きかけたところで倉持が振り返った。
「その服、スゲー似合ってる」
『…あ、ありがと』
不意打ちとかズルすぎる。
とか思ってたら置いていかれそうになって少し駆け足になった。
それからいろんなお店を見て回って、お昼ご飯も食べた。
いろんなお店と言ってもほとんどがあたしの行きたい場所だけど。
服が見たい、靴が見たい、じゃあその服と靴に合うアクセサリーが見たい、お昼はパンケーキね。
倉持はそれに面倒臭がらず全部付き合ってくれた。
『じゃあ最後に倉持の行きたいところへ行かせてあげる』
「ヒャハ!お前ほんっと最高!なんだよその上から目線!!」
仕方ないじゃない、性格なの!!と心の中で叫ぶ。
じゃあ付き合えよ、と歩き出した倉持についていこうとしたとき足にピリッとした痛みが走った。
見ると不安的中、靴擦れをやってしまっていた。
でもあと少しなんだから平気、と思いながら歩いた
…ら、見事に悪化した。
なんとか倉持にはついていけてるけどもう無理、なんか転けたくらいのレベルで血が出てるんですけど!?
『っと、止まんないでよ。危ないじゃない…って何!?』
突然肩を押されてガードレールに座らされた。
そして問題のミュールに手が伸びた。
「…お前、いつからこーなってた」
『分かんないけど…多分倉持の行きたいところへ行こうってなったときくらい』
「あのなぁ…痛かったらすぐ言え、心配するだろうが」
『別に平気よ』
「バカかお前、すげぇ血出てんじゃん。あーもう、絆創膏とか持ってねえのか?」
持ってる、と言いながら渋々差し出す。
絆創膏片手にあたしの足を真剣に見つめている。
「ったく、こんなにしてツンデレも大概にしろっての」
『は!?別にツンデレなんかじゃないし!!歩けるわよこれくらい!!』
思いっきりミュールに足を突っ込んで立ち上がろうとしたら足を掴んで止められた。
「だから大人しくしてろ!!これ以上悪化させる気かよ、素直になれ!!」
『…っうるさいわね。…そうなれたら誰も苦労しないわよ!!あたしだって素直に言えたらとか甘えられたらとか思うわよ、けど出来ないの!!気にしてるんだから!!』
言い切ったら今度は後悔に苛まれた。
最悪だ、素直じゃない上に厚意を仇で返す恩知らず女子なんて誰だって嫌いになる。
はぁ、と倉持が溜め息をつくのが聞こえた。
「なんも分かってねーよ。…チュッ」
リップ音と共にあたしの足に倉持の唇があたった。
『…は?…ってなっ、ななな何やってんのよ!?』
「…俺はな、ツンデレでワガママ女王様なお前が好きなの。本当はすっげぇ俺の事気にして今日も可愛くしてくるし、最後には俺の好きなところ行っていいとかそんなとこがすげぇ好き」
嘘ばっかり、なんて言えるようなぬるい言葉ではなかった。
「好きだし、愛されてるって分かるから俺は全然迷惑とか思ってねぇ。むしろこんな可愛いツンデレラなら喜んで服従するぜ。つー訳で大人しくしてくれ、お姫様」
あたしは何も言えないまま倉持にされるがままの手当てを受けた。
よし、とあたしの足を軽く叩いてから今度はあたしに背を向けてしゃがんだ。
「歩けないだろ、早く乗れ」
『………分かった』
「ヒャハ、やっと素直になったかツンデレラ!うし、じゃあとばすか!」
『とばすって何の…きゃっ!?』
あたしが倉持におんぶされるやいなや全力で走り出した。
『ちょっ、スピード落としなさいよ!?従者なんでしょ!!』
「従者にも息抜きは必要なんだよ!」
『意味わかんないんですけど!?…でも、楽しいから許す!』
「ヒャハ!素直なお褒めの言葉、ありがたく受けとりますよ!女王様!」
『だから女王様じゃないっての!!』
愛しのツンデレラ
(君になら服従してもいいぜ?給料は息抜きと言う名の反逆だけどな!)
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