Slll・novel

□冷え性は口実
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「すー………」


目を開けて、閉じて、もう一度開けた。

何故なら目の前の光景を信じたくないからである。


『…ひろお、み…?』

「…んぅ…なんだい…?」


いかにも眠いですと言うように博臣が目を開ける。


『どうしてここにいるの…?』


そう、ここはウチの寝室なのだ。

と言っても借り部屋なのだけれど。

昨日は博臣の家に泊まらせてもらって、その流れでこの部屋を貸してもらった。

外からは鳥の鳴き声が聞こえる。

あまりに突然というか予想外のことすぎて思考がついていかない。


「どうしてって…寒かったからさ。今日はどうも早く目が覚めてしまってね。廊下をふらふらとしていたんだけど寒くて。そしたら近くに君の部屋があって中を覗いたら暖かそうに寝ているから」


そう言ってウチの被っていた布団を持ち上げる。

博臣と同じく冷え性のウチは比較的暖かい今でも分厚い布団と毛布とを併用している。

博臣が誘われるのになんら不思議はない重装備である。

ウチが黙ったのを確認すると博臣が口を開く。


「わかったならもう少し寝ようか」

『ウチは起きるから博臣が使うなら使って』


このベッドに二人は狭い上に…流石にこれは恥ずかしい…。

ベッドから出るために身を引いたが少ししか動かなかった。

ウチの脇には既に冷え性の博臣の手が差し込まれていたからである。

そのまま博臣の手はウチを抱き寄せる。

冷えた指先には冷えた指先、冷えた足先には冷えた足先を絡ませる。


「うぅ…相変わらず冷え性だな…」


ぴたりと体を密着させる。


『恥ずかしい…』

「いいだろう?あ、首も暖めるといい。ほら俺のマフラーを巻けばいい」

『…っ大丈夫、平気だから』

「首を暖めると全身が暖まるらしい。ほら、指先だってこんなに冷えてるだろう」


ぎゅっ、と絡まる指先が強くなる。

それと一緒に体温も高まる。

至近距離で見つめられて、指先や足先に熱が行く。


『大丈夫だから…』

「嘘。まだまだ冷たい。…というかいい加減素直に身を任せればいい。恋人同士、互いを身近に感じたいんだ」


そういうと博臣はぐっと顔を近づけてきた。

さらさらの髪がウチのおでこに当たったと思うと唇に柔らかい感触が残る。

それから何回も何回も髪のさらさらと唇の柔らかさがウチに触れる。


『…ん、もう』

「全く…いつになったら慣れるんだ?」

『…恥ずかしい』

「仕方ないな…。今日は暖まるのが目的だからこの辺にしておくか。あ、逃げたらその時は覚悟しておけよ」


ふわり、と妖しげな笑みを浮かべた博臣にはどうも逆らえない。


『逃げない…。おやすみ』

「うん、えらいえらい。…おやすみ」


そうして結局ウチたちは体温と睡魔に身を任せて、二度寝に興じた。





冷え性は口実

(いつまで経っても暖かくならないな…)
(ウチたち冷え性だから…)



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