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□勇気を流し込む天の川
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『新…お茶持ってきた』
かたん、とベランダから屋根にかけた梯子をならしながら上がる。
新は心配しすぎではないかと思うほどハラハラした顔でウチを見つめている。
『心配しなくても落ちない…』
「そうは言われても、やっぱり心配なんや。怪我されたら俺が悲しい』
そう言って手を差し出してくる。
心配はかけたくないのでその手をぎゅっと掴んで引き上げてもらう。
麦茶の入ったコップを新にも渡して隣に座る。
『天の川、楽しみ…』
「そうやなぁ」
お互いに元々口数は少ないので多少なりとも会話がなくても普通だ。
でも今日の新は何かが違う。
Tシャツの裾をいじってみたり、なんとなく動きが多い。
『新…「おぉ!天の川見えたで」…綺麗』
言われて見上げると空には光の帯が横たわっていた。
晴れれば毎年見られる光景だけれどいつも見ると幸せになる。
なんとなく気分が晴れて前向きになれる。
「なぁ、天の川の織姫と彦星みたいに一年に一度しか会えなかったらどうする?」
ざぁっという音と共に雲が天の川を消す。
『新…どうした「答えて」…嫌』
「ほーか。俺もそうや」
新の言わんとしていることがいまいち掴めないでいると今まで空を眺めていた新がウチの方を向いた。
「今こうして毎日会えてるのは凄くいいことやと思う。だから俺、頑張ってみたい。もっとお前を幸せにできるように」
言ったのと同時に雲が晴れて、新の顔がはっきりと見えた。
柔らかい新の唇がウチの唇を掠めるように当たった。
「大好き…」
『…ウチも』
それから天の川を見ている間、新はずっとウチの手を握っていてくれた。
手を繋ぐのでさえ億劫だったウチたちにとっては大進歩である。
今年の天の川は一生忘れられないものになる。
勇気を流し込む天の川
(新…本当は誰かに言われた…?)
(…千早と太一がうるさくて)
(やっぱり、新はヘタレ…)
(言わんといて…)
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