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□青い春故でしょう。
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「なァおい。そこのお姉さん」


私と総悟くんとの出会いは、ありんこよりかは大きくて、道端に溜まった水溜まりよりかは広い、そんな運命的な出逢いでした。







「いやそれ、全っ然運命的じゃねェだろィ」

『あ!総悟くん!!』


真選組の真っ黒な隊服を身に纏いながら、暑そうに汗を垂れ流しているこの少年は先月出会ったばかりの沖田総悟くん。


亜麻色の髪がとても綺麗な男の子なんで「べらべら恥ずかしいこと言ってんじゃねェよ」


『私、口に出してましたか?』

「丸々全部な」

『えぇ!?そんな馬鹿な!!!嘘ですよね!?』

「嘘でィ」



あぁぁああぁぁぁっ!?そんなぁ!?
私は読者の皆さんの前にとんだ恥ずかしい恥態を曝してしまいまし…たって、


『嘘ですかぁ!?』

「嘘に決まってんだろーがよ。考えてること全部駄々漏れなんてよくあるネタ、読者様はもう飽き飽きなんでィ」

『読者ってなんですか!?!?』


よくわからないことを言う総悟くんに対するツッコミ(っていっても私のツッコミスキルなんてたかが知れているんですけど)は見事にスルーされてしまう。

これもいつものことなので、今更どうということはないのだけど、今日はいつもと違って、あるオプションが付け加えられた。


ちょい、ちょい
っと総悟くんの右手が私にむけられている。


『なんですか?』


訊ねても総悟くんは一切答えず、また、手をちょい、ちょいっと動かしただけだった。


『ん〜?』


意図を図りかねて首を90°折り曲げて考えていく。

そして、頭が68°くらいの角度になったとき、ようやく総悟くんの言わんとしていることが理解できました!



『ふっふっふっ!!こういうことですね!!総悟くん!!』


私に向けられている総悟くんのの手のひらの上に、自分の手をぽんっと、のせる。
勿論手はぐーの形にして



それは所謂、お手というやつで



「…………は?」


途端、間の抜けたようなぽかんとした表情を浮かべた総悟くんのはその表情をみるみるとあきれたものに豹変させていった。


…もしかして、お手じゃなかったのかな…?


「…………ぱー」


暫くの沈黙と突き刺さる総悟くんの視線に耐えに耐えたのち、漸く発せられた言葉はこれだった。


『ぱー…?』

「………、」


まただんまりだ。
総悟くんの目を覗きこむようして、目でその言葉の意味を問う。

総悟くんは目をそらす。

けれど、そのすぐあと、重たく、総悟くんは再び口を開いた。


「…ぱー、…しなせェ」


ぱー?


『こうですか?』


総悟くんの手のひらの上にある自分の手を勢いよくパシッと開いて、ぱーの形にする。

大きくぱーに開いた私の手のひらはそれでも、総悟くんの大きな手のひらはには敵いそうもなく、覆い被せているのは自分の手なのにまるで私が総悟くんの手のひらに覆われているような感覚を覚えた。


じんわりと体温が広がっていく。


「ったく、鈍すぎまさァ…」


なにやら、ボソリと呟いた総悟くんは、次の瞬間ばっ!と私の手のひらを強く握り締めた。


そしてそのまま、半ば強引に手を引かれて、突然のことに驚いた私は力のかかる方向…つまりは総悟くんの方にまっすぐと倒れていく。


総悟くんの胸板に鼻をぶつけそうになったその直前、目の辺りで温かい温度が広がって、視界は真っ暗にかわった。


『え、え、目隠し…?ですか?え?』


どうやら、その原因は私の手と繋がれていないもう一本の総悟くんの手にあるようで

わずかに香る総悟くんの香りが、ソッと鼻を掠めた。

って、私は変態ですか!?………クンカ、クンカ


『目ぇっ、は、外して下さいよぉ!!!』


おそらくこの手の向こうにはとてつもなくいい笑顔をした総悟くんの笑顔が広がっているのだろう。
それはつまり、私にとっての絶体絶命のピンチ

繋がれている手に力を込めて握り返し、ちょいちょいと引っ張りながら外してくれと訴えた。


「外して欲しいですかィ?」

『あ、当たり前じゃないですか!!』

「んー…?どっしよっかなー?」


きっと楽しんでる。
とてつもなく、楽しんでる。この人は。

このままでは埒が開かないと、なんでもするからとりあえずこの手外して下さい!と言おうと口を開いた瞬間


「あ」


と、何か思い付いたような(でも何処か棒読み)声を上げた。


「虫がとまってまさァ」


むし?…えっ、えっ
む、むむむむむむ、虫ィ!?!?!?

総悟くんの言葉を数秒遅れて理解した私は、目隠しをされているせいでどこにとまっているのかもわからないし、ただでさえ苦手な虫という存在のせいで狼狽えるどころの騒ぎではなかった。


『とって!!とってくださいいいいいいいいっ!!!!!』


総悟くんの手のひらの下で、冗談ではなく本気で涙を浮かべながら、必死で総悟くんに請願した


「いいですぜィ」


そんな必死な様子が幸を成したのか、はたまた総悟くんの気紛れかはわからないが、思ったよりもあっさりとその願いは叶えられることになった。


「動くんじゃねェぞ…」

『総悟く…んぅっ!?』


真っ暗の視界に僅かな隙間ができて、その隙間から見えたのは、総悟くんのサラサラした綺麗な髪の毛で

唇には何か温かいものが押し当てられているような感触がした。



「………、」


ゆっくりとその感触が離れていくと同時に総悟くんの髪の毛も遠ざかっていく。

熱を持った私の顔は、脳よりも先に状況を把握したのか赤みが引くことはない。


ぅえっ!?ええ!?


クラッシュ寸前の私の頭とは相反して視界は徐々にクリアになっていく


「もーらいっ」


最っっっ高に良い笑顔をした総悟くんを怒る気にも、ましてや泣く気にもなれず、微笑み返してしまったのは…


「…っ、笑ってんじゃねェ」



青い春故でしょう。


(…で、虫はちゃんととれましたか?)
(あんたやっぱバカだろィ)


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