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□君専用抱き枕
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ぱたり、と彼女が本を閉じる音がした。
それに続いて僕も本を閉じて、寝る準備にかかる。
僕の部屋にはベッドが一つしかない。
はじめて死神の彼女が泊りに来た時の反省を活かし、今回は敷布団を一枚用意した。
『石田、おやすみ』
「あぁ、おやすみ」
電気を消して、ベッドにもぐりこむもどうも彼女が気になって眠れない。
当の彼女は全く気にしていない様子で何の音もしない。
とりあえず目を閉じればどうにかなるだろうと目を閉じてみる。
「(…………ッ!!)」
ダメだ、目を閉じてしまえば余計彼女のことがちらついて逆に邪な考えが浮かぶ。
「(僕は何を考えているんだ?!落ち着け、そしていつもの僕に戻るんだ!!)」
自分を叱咤してみるが無意味と悟って大人しく目を開けたままじっとしていることにした。
「(今日は徹夜覚悟だな…)…ッ!?」
そんなことを思っていると不意に脇腹にもぞもぞ動く物体を感じた。
気になって布団をめくってみると中には彼女が居た。
「なっ、何をしているんだい?!」
『…抱き枕がなくて寝られなかったから、石田を抱き枕代わりにしようと思って』
「僕を抱きまくら代わりに…?」
唖然として声が出なかったのを肯定と受け取ったのか彼女は僕のパジャマをきゅっと掴んで目を閉じてしまった。
「…って、ダメじゃないか!!抱き枕なら枕を代わりにすればいいだろう?枕がなくなるのが嫌だというなら僕のを貸してあげるから」
『…石田がいい』
つい、クラッときてしまった。
暗闇で僕の胸元をつかみながら無表情ながらも上目遣い、理性を保った僕を誰か褒めて欲しい。
「……今日、だけなら構わない」
『ありがとう…おやすみ』
それだけ言うと彼女は眠ってしまった。
取り残された僕は一体どうすればいいのか、と途方にくれながら抱きしめるかどうか十分迷いながらとりあえず、この状況を甘受した。
君専用抱き枕
(石田…隈が酷い…)
(あぁ、どうやら苦労が祟ったみたいだね…)
((結局抱きしめられなかった…))
2013.05