桜/魂
□ただ呆然と片鱗は
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(銀時視点)
先日、俺の胸に縋りつくように泣いて“嫌いにならないで”と言った咲良をみて、俺ァ一体なにしてんだろうって、今まで咲良に対してしていた自分の行いを心の底から悔いた。
わかってた筈なんだ
いくら剣の腕は強くても、あいつが、本当はすげェ弱い奴だってことは
ものすごく傷付けちまった
あんなに泣くあいつを見たのは初めてで、どーしょうもなく、後悔した
自分のことばっかりで、頭に血が上っちまって…
だから、ケジメつけねェと。
ちゃんと、高杉の野郎に云わねェといけねェ
俺が…、
「……高杉」
廊下を歩く高杉の肩を掴んで呼び止めた。
高杉は少し眉間に皺を寄せながら振り向いたが、俺の表情をみて何かを悟ったのか、一言“わかった”そう言って、踵を返して俺の後をついてきた。
連れてきた場所は、まさに高杉が俺に宣戦布告してきた場所だった。
「何だよこんな場所つれてきて?」
ハッと鼻で笑う高杉を一瞥して俺は一つ息を吐いてから、ゆっくりと口を開いた。
「…なァ」
「…あ?」
正直口に出すどころか、思い出したくもない。
もし本当にそうなのだとしたら、またあいつに当たっちまうかもしれねェ…
でも、ちゃんと聞いて確かめねェと。
それが、俺のケジメだ。
「高杉…、お前さァ…、あいつと、キス、したのか…?」
強い風が吹いて、俺の銀色の髪が揺れる。
暫く驚いたように目を見開いていた高杉は直後、あぁ、なるほど。と、納得したように声を漏らし始めた。
「てめェそれであいつと喧嘩してたのかよ」
お馴染みのバカにしたような、上から目線を意識させる笑みを返された。
んだよ、いちいちムカつく野郎だなコノヤロー…
ひとしきり笑い終えたヤローは、睨み付ける俺を見ることもなくさっさと後ろを振り返って、来た道を歩き始めた。
っておいおいおいおいいいいいいいい!?!?!?
えっ!?おまっ、えっ!?
帰んのおおおおおおおおおおおっ!?!?
「なっ、おいッ!!!!!!待ちやがれっ!質問に答えろっての!!!」
慌てて引き留めた俺の声に反応して高杉は歩を止めた。
そしてすぐに呆れたような声が返ってきた。
「お前ェ…、パーなのは髪だけにしとけよな…。…してねーよ、キスなんて」
「はっ!?!?だってお前ェら、道のど真ん中でキスしてたじゃねェかよッ!!!!!!って天然パーマ馬鹿にすんじゃねェ!!!」
「だからしてねェって言ってんだろーがよォ…。馬鹿かてめェは」
「…!!!ってだから、馬鹿じゃねェっつーの!チビ杉のくせによォ!!!」
「あぁん!?んだとこの腐れ天パが!!!」
売り言葉に買い言葉で俺達は取っ組み合いの喧嘩になった。
こいつとこうして喧嘩するのだって、随分と久しぶりな気がする。
そのくれェ、ホッとした。
なんだよ…、俺の勘違いかっての、情けねェ
ガシガシと髪を掻きむしって意を決したように口を開いた。
「なァ高杉」
「…あん?」
「俺さァ、あいつのこと好きだわ」
「、…そうか」
「あァ。だからわりぃな、お前に奪われるわけにゃ、いかなくなっちまった」
「……ハッ。話はそんだけか」
「あァ」
また歩き出した高杉は今度こそ足を止めなかった。
そして角を曲がる寸前、俺をみて挑発的に笑った。
「てめェがどうであろうと、俺ァ関係ねェよ」
完全に見えなくなった高杉。
高杉が消えていったその角を見詰めながら俺も口で弧を描いてみせた。
「……上等」
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