桜/魂
□ただ呆然と片鱗は
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『えっと…、タオルって確か洗面所よねぇ?』
真っ暗で明かりも点いてない洗面所の扉をそっとあける。
積み重ねられて置いてあるタオルから一枚抜き取って、腕に引っ掻けるようにのせた。
明かりが点いてないせいか、真っ白で清潔感のあるタオルが暗闇で薄めの黒に見えた。
そのタオルの感触を確かめるようにそっと一撫でした瞬間だった。
『…ッ!!!』
**
「ねぇ銀時」
「…なんだよ」
さっきからかったせいですっかり拗ねてしまった銀時は唇を尖らせて返事をする。
本当にわかりやすいですねぇ
微笑ましく思えてならない
「咲良はあぁやって、気丈に振る舞ってはいるけど、やっぱり本当は弱い女の子です」
「………」
銀時は無言で頷いた。
か弱い女の子。
そう言って私は咲良を初めて見たときのことを思い出した。
まだ幼い背中に大きな傷を負い、瀕死の重傷で逃げていた彼女…
きっとあの子は何かとても大きなモノを背負っているのだろう
そんな彼女をどうにかして救ってあげたい
でもきっと…、それは…
「だから、咲良のこと、これからも支えてあげてくださいね」
私の言葉に一瞬驚いたような表情を浮かべた銀時は次の瞬間には唇をニッとつりあげた。
そして少しの間をおいてこう言った。
「……当然だろ」
**
『…ッ!!!』
突然強烈な痛みが頭を襲った。
ぐにゃりと歪む視界…目眩がする程の頭の痛み
『な…、によッ…!これッ…』
腕から滑り落ちたタオルに気を止める余裕すらなく、壁に寄り掛かって痛みが引くのを必死に待った。
数分…、実際には数秒にも満たないかもしれないけれどその痛みは一向に引くことはなくむしろ強くなっているような気がした。
なんでいきなり…っ
今までにこんなことはなかったはず
そう思ったとき、ハッと松陽先生に拾われた日のことを思い出した。
あの時も…
波のようなこの頭痛には確かに覚えがあった。
『…ッ』
今、痛みに耐える為に固く閉じていた目を開いてしまったのは何故だろう。
そして、鏡に映る自分の姿を見てしまったのは何故だろう。
う、そ…?
鏡に映るあたしの姿は
紅く、紅く
血に濡れた桜のように紅く、髪全体の毛先が染まっていた。
すると突然、嘘のようにさっきまでの頭痛がやんだ。
消えたような喪失感からか、痛みが止んだ安堵からか、息をハッと吐き出して無意識に目を閉じた。
目をあけた時、あたしの髪はいつもとかわらず真っ黒な色をしていた。
『意味…わかんない…、』
ズルズルと壁を伝って崩れ落ちるように座り込む
見間違い、そう言い聞かせながら、目の前にあるタオルを掴んだ。
ただ呆然と片鱗は
(…この子達と一緒にいられる時間はきっともう後わずか……)
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