√3xの心拍数


□√3×歌で幕あける最高の舞台
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指揮を振っている数分間を咲良はもう思い出せなかった。

しかし、幸せなことだけがはっきりとわかる。

視界の下の方に見えた茶色い頭を小突いた。


『よっ。どうだった?あたしらの合唱』

『良かった。それと…面白かった』


珠央は視線を緑間の方に移すと続いて黄瀬の方に移す。

意味が分からず咲良も同じように視線を移すがさっぱりである。


『?…まぁいいわ。てかあんたたち卑怯じゃない?』

『どうして…?』

『だって絶対勝利の赤司様が居るクラスなんだから絶対優勝…あれ、赤司は?』


列の先頭に居るはずの赤い頭を探すが見つからない。

念のために後ろも振り向いて見るが目立ちまくる赤色が見つからない。


『赤司は今日、休んでいる』

『えっウソ。赤司が風邪…『違う。家の用事だと言っていた』


家の用事ねぇ…と咲良はもう一度口の中で繰り返す。


『ま、あたしたちにとってはラッキーってことね。頑張れ』

『(コクリ)…努力する』


咲良との会話が終わるや否や珠央はクラスメートに囲まれた。


「神城、赤司から伝言とか預かってねぇ?」

『特に…ただ、指揮を代わって欲しいと言われた』

「あ、そうなの?珠央ちゃんがやってくれるなら安心するよ〜」


言った女生徒に賛同するように珠央を応援する声が続く。


「んじゃ、赤司は家の用事でいねぇけど優勝しようぜ!」

「うん、赤司様がいなくても絶対勝利だってこと見せつけてやんないと!」

「赤司様におんぶにだっことか言ったやつら、見返してやんぞ!!」


舞台の上に上がり、一人逆方向を向いて立つということに少しの緊張を感じなかったわけでもないが珠央は変わらずポーカーフェイスを貫く。

真面目、成績優秀を理由に珠央を信頼しているクラスメートの目線が集まる。

その視線には不安は何一つなく、ただ勝利という思いが見えた。

腕を振り上げながら珠央は少し思った。

赤司征十郎はこのプレッシャー少しも感じないことが凄い、と。

そして、赤司は今何をしているのだろうか、と。


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