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□追記メモリーズ
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「あー…これでてめェらも晴れて卒業なわけだがはしゃぎすぎて気ィ抜くんじゃねェぞ。特に男子ィ!!キャバクラ行くときは先生も必ず誘うように!あ、勿論お前らの奢りね?」


卒業式の後にこんなバカな話をしているのはきっとこのクラス、3年Z組だけだろう

こんなふざけた先生の話とそれに反論するバカ共の声をBGMにしていても涙ぐんでくるのは今日がそうしてられる最期の日だから



ちらりと横を見れば皆変わりなく、でもいつもと違う、そんな雰囲気を漂わせていた。


「いてててて…んな本気にしなくてもいいじゃねェか…」


さっきの言動のせいで土方あたりにでも蹴られたのか、先生はボロボロになっていて腰を押さえていた。


「まぁ、その…なんだ。アレだアレ。卒業しても元気でやれよ」


最後の最後でまじめになった先生に涙腺を破壊されたことは言うまでもない。





**




卒業証書を片手にすっかり空っぽになった教室にたたずんでいると


ガラリ


昨日までは当たり前だったその音が教室に響いた。


「何してんだァ?」



最後だというのに相も変わらず派手なワインレッドのシャツを学ランの中に着込んだ高杉が僅かに目を見開いてそう尋ねた。


『あんたこそ何してんのよ…?こんな時間に』


あたりはもうオレンジ色に染まっている。


「忘れモンだよ、忘れモン」


指で指された方に目を向けると高杉の席だった場所には置き去りにされた卒業証書があった。


って、普通卒業証書なんて忘れる?


呆れてモノも言えずにいると


『な、何…』


その忘れ物を取りに行くわけでもなく高杉は真っ直ぐこちらに向かって歩いてきた。


あわてて後ずさるがあたしのすぐ後ろには誰のかわからない(でも多分土方)の机があり、行く手を阻まれる(今度会ったら土方ぶっ殺す)


そうこうしている間に高杉はあたしのすぐ目の前まで来ていて、そこで立ち止まった。


ゆっくりとこちらに高杉の手が近づいてきて思わず体がビクリッとする


のばされた手はあたしの目もとに触れソッとなぞった。

 

「目、腫れてんぜェ…?」



きっと卒業が寂しくてさっき散々泣いたせいだろう

でもそれをこいつに知られるのは無性に嫌で



『うるさい、気のせいよ。だからその手を早くどけて』



虚勢を張って睨みつけた

高杉は肩をすくめて溜息を吐く。
でもその手はあたしの顔から離される気配はない


『何…?』


高杉の手はあたしの目もとからゆっくりと下へ降りていき頬でとまる。



「お前よォ、今日はもう卒業なんだぜ?」


何をそんなわかりきったことを
だからこうして目を腫らしているのではないか


高杉の言いたいことが今一わからなくて軽く首を傾げた。



「いい加減素直になってみろや」



瞬間顔が赤く染まる
高杉の言わんとしていることがわかったからだ。


夕焼けのおかげで多分高杉にはバレてないと思うけど顔は熱を増し、あたしは慌てて目線を高杉から逸らした。



けれどそれが気に入らなかったのか高杉は眉を顰めたかと思うと強引にあたしの顔を高杉の方に向かせた。



「どうなんだよ?なァ…?」



今度近付いてきたのは高杉の腕ではなく、高杉自身



『…き、』

「あ…?」



耳元で不機嫌に囁かれる

もうなんだかさっきとは違う意味で目に涙が溜まってきそうだ


『だからっ、す、好きって言ってんのよバカ杉ィ!!!どう!?これで文句ない!?』


半ばやけくそになってそういえば高杉は腹を抱えて笑いだした。


顔から湯気が出そうなくらい恥ずかしい

高杉を睨みつけるだけではわりに合わない、この手に噛み付いてでもやりましょうか!?


もはや犬の思考になっていることに今さらツっこむ気にすらなれない(だって3Zだもん)



ひとしきり笑い終えた高杉はゆっくりと顔を上げ、あたしの目をじっと見つめた。



「あぁ。上出来だ」



気付けば視界はオレンジに染まった高杉で埋め尽くされていた。









追記メモリーズ



(〜っ!!な、何もこんな返事の仕方しなくたって…!)
(あ?こっちの方がわかりやすいだろ)
(でもっ)
(ククッ なんならもう一回してやるぜ?)
(け、結構ですっ!!)


2013.03
 

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