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□はちみつ色の時間
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秀徳高校に入って三年目、最後の年が始まった4月のことだった。

その時間は突然訪れた。



はちみつ色の時間



部活の荷物を教室へ置いてきたことに気づいてなれない教室に戻る。

別に急ぐ必要はないけれどバスケが生活の一部と化している今早くしよう、と思っていた。

重たい引き戸を力任せに開く。

誰も居ないだろうと思っていたが、居た。

はちみつ色の髪を持った少女が。

いや、正確には茶色の髪が太陽の光を反射してはちみつ色に光っているように見えるだけなのだが。

ゆっくりと、それでもまどろっこしくないようなあの感覚を感じる。


「おぉ、お前かよ。びっくりした」

『宮地…どうしたの…』

「忘れもんだよ」

『もう部活始まってるの…?』

「おう」


端的な会話だけどそれが何故か心地いい。

心に何かが垂れこむような心地よさ。

と、そいつの手にスケッチブックが握られていることに気付いた。


「またなんか描いてんのか」


三年間一緒だったからいつもの癖で覗き込もうとすると隠された。

目線で、ダメだと伝えてくる。

しかしそう言われて引き下がるやつが居ない訳で


「ダメって言われたら見たくなるだろーが」

『あ…ダメ…それは…』


一瞬、心臓が止まるかと思った。

そこにいたのは俺"だった。

はちみつ色の髪を揺らす俺が居た。


「これ…俺?」


恥ずかしそうに頷く。

その瞬間に何故か俺は自分が喜んでいることに気がついた。

普通ここはどん引きするところなのだろうけど。

ゆっくりとはちみつ色の時間が流れていく。

輝いていて甘い時間が。


「あのさ…俺、お前のこと好き」


ゆっくり、でも確実に流れ出した言葉は向こうの心に垂れたようで。


『ウチも…宮地が、好き』


ゆるり、と抱きしめる。

太陽のはちみつ色が絡みつく時間だった。



2013.04
 

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