√3xの心拍数
□√1×こっちも忘れずに
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先に練習したのは咲良達の方だった。
伴奏担当の緑間がピアノの椅子に座ると指揮担当の咲良に目線で合図を送る。
咲良が腕を振りおろし、ピッタリのタイミングで緑間の伴奏が始まる。
『わ〜、流石緑間君です!相変わらずピアノ上手いですね〜』
知紗の言葉がいい終わるや否や今度は歌声がそこへ入る。
今度は黄瀬が感嘆する。
「皆上手いっスね〜。結澄っちの指揮もいいし。いいなぁ〜俺も結澄っちの指揮が良かったな〜」
「黄瀬ちん、結澄ちんのことばっか〜。てか峰ちんちゃんと歌ってるじゃん」
紫原のその言葉に知紗が青峰の方に顔を向けると思いのほか真面目歌っていた。
『(青峰くん、ちゃんと歌ってます。良かった)』
ジャン、と最後の音が鳴り終わりぞろぞろと生徒が入れ替わる。
「やっぱ結澄っち上手いっス!!」
『あー、はいはい。ありがと。そんな余裕にしてたら優勝、あたしたちが貰うわよ』
「クラスとしてそれはダメっス。何が何でも俺たちが勝つっス!個人的には緑間っちに勝つっスけど」
さっきと同じ気配を感じさせる意味深な笑みを問いただす暇もなく、黄瀬は早々とクラスの列に戻ってしまった。
暗めだった咲良たちのクラスとはうって変わって明るめの伴奏が始まる。
合唱が始まってから終わるまで思うことはただ一つ。
『何これ。うますぎでしょ…』
「確かに伴奏も俺より上だ」
「…うますぎんだろ。勝てんのかこんなんに」
合唱コンクールに興味のなかった青峰まで引きこんでしまうほど知紗のクラスの合唱は異常なまでに上手だった。
何でも出来てしまう(自称)黄瀬はもちろん、紫原も真剣モードでとても上手い。
そしてさらに普段声が小さいといわれている知紗が真面目に、しかもそれなりのボリュームで歌いあげている。
合唱が終わった時、対抗する意識と言うよりも素直に上手だという感情が上回る。
『何よ。あんた本気じゃないの』
「結澄っち、俺のことみてくれてたんスか?!嬉しいっス!!」
『は?!違うわよ!!やたら上手い奴が居ると思ったらあんただっただけ!!』
ツンっ、と咲良は逆を向いてしまう。
そんな咲良の横にニコニコを浮かべる知紗が来る。
『咲良も素直じゃないですね。私のクラスは団結力だけが取り柄なので!』
「…でも雪村は足引っ張ってたけどな!」
『青峰くん!私、足なんか引っ張ってません!!一生懸命歌ってますもん!!』
「ハッ、寝言はもっと成長してから言え」
知紗の一点を注視して、青峰は憐れみの視線を向ける。
『青峰くんのバカっ!!絶対に負けませんから!!』
「望むところ…『ハイハイ、あんたは真剣に歌ってないから黙ろうか』
咲良は青峰を引っ掴んで下がらせると不敵な笑みを浮かべて、
『絶対負けないわよ!あと二日でどうにかしてやるんだからっ!』
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