桜/魂
□マゼンタの視界に
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辺りは薄闇に飲まれ、ちらほらと紅い提灯が吊り下げられている。
そして焼きそばやらタコ焼きやら綿飴やら…
食欲を誘う祭特有の香りが充満した。
『銀時ぃ!ヅラ…じゃなくて、小太郎!松陽先生ー!!』
にもかかわらずあたしの手の中には何もないのは祭に来て直後、銀時達と逸れてしまったから。
『もうっ…。皆何処行ったのよ…』
逸れたのは自分が悪いのだから、文句なんて言えないけど、こうも見つからないと流石に苛立ってくる。
あたしは足元に落ちていた屋台の焼きそばのトレイをぐしゃりと踏み付けた。
「あぁ…?咲良?何でてめェ一人でいやがんだァ?」
『え、し、晋助っ!?』
何でいるんだろ…
思わぬ人物の登場に頭がこんがらがった。
『は、逸れたのよ…』
この歳にもなって逸れたなんて、言いたくなくて(特にこいつには。いやでもやっぱ全員に言いたくない)言葉の歯切れが悪くなった。
それでも十分に聞き取れたのか、ゆっくりと晋助の口許が釣り上がっていく。
「ようするに迷子か」
『〜っ!!うっさいバカ!!』
あぁ、もうっ!!
だから晋助には言いたくなかったのよ!!
半分涙目になって睨むあたしを晋助はククッと笑っている。
『もう…何なのよ。何であんたがいんのよ。祭、来ないんじゃなかったの?』
「行かねェとは言ってねェ」
“何の屁理屈よ”
そう言って呆れ気味に晋助を見れば今度は不愉快そうに顔をしかめた。
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