S・novel
□アントシアン上昇中
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桜の葉が青々と茂り始めた初夏。
赤司が図書室へ来るようになった。
最初は本を借りるだけ。
でも今は少しくらい話をするようになった。
「やぁ。これ、借りてもいいかな?」
『…貸出期限は一週間です。どうぞ…』
「ありがとう」
そういうと赤司はカウンターに一番近い椅子に座った。
まじまじとウチを見つめている。
『…何』
「…最近、オススメの本はあるかい?」
何かと思えば内容は本の紹介だった。
座っていた椅子からゆっくりと腰を上げ、近代文学の棚に近づく。
そしてその中から一冊を抜き取り赤司に手渡した。
赤司はしばらくそれを眺めると
「じゃあ、これも借りていくよ」
目を細めて薄く笑い図書室から出て行ってしまった。
何故だか一瞬、反応が遅れて
『……』
ウチの返事は体の中にぽつん、と残った。
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