桜/魂


□届かぬ指先
3ページ/3ページ




『やっ、うそ…!!なんで…?』

「ッ!!先生ッ!!!!!!!!!!!」



燃えているのは間違いなく寺子屋のある方で、あの一帯は木で囲まれているから、寺子屋が燃えてなかったにせよ、いずれ火が木を伝って寺子屋に回ってしまう。



どうかっ
どうか先生がまだ寺子屋にいませんように…!!






あたしたちは、何となく、そこにまだ先生がいることを
薄々と、いや、確信はないけれどはっきりと感じていた。



「先生ッ!!!!!!!!!!!」


いち早く我に返り寺子屋に向かって走り出したのは銀時だった。

銀時はあたしたちを気にすることなく、無我夢中で走る。


『!!銀時…っ』


慌ててあたしたちも走り出す。

赤々と燃え盛る火があたしたちを追い立てるかのように


涙なんか浮かべてる暇なんかないっ
先生ッ!!先生ッ!!!!!!!!!!!



早く!!先生にっ!!!!




「うっ」


背後で聞こえたのは晋助の苦心声だった。


「た、高杉!!!!」

『え…?』


振り向くと、ぐったりとして倒れている晋助と、顔を真っ青に青ざめさせている小太郎

そして、

黒い着物を身にまとった、何人かの男達…いや、


幕府の人間だった。




『っ晋助!!!!』

「がっ!?」


晋助の名前を呼ぶあたしの声とほぼ同時に小太郎までもが、その男達にやられた。


そして、その目は次にあたしに向けられる。



晋助っ、小太郎…っ


地面に伏して気絶している彼らを一瞥する。


なんで、なんでこんなことに


今ここに、当然竹刀はない。
竹刀の代わりになるようなものもない。


絶対絶命、殺されるの?あたしたち

それだけはなんとか阻止しなければならない。

晋助と小太郎を殺させるわけにはいかない。


ならば、ここは抵抗しないほうがまだいいかもしれない。

抵抗しなければ、向こうも一応幕府の人間のはず。
なんの理由でこんなことするのかはわからないけど、殺されはしないはず



そう思い、男達を睨み付けながらも抵抗はしなかった


それが功を成したのかあたしたちは殺されることはなかった。
しかしなぜか、まるで犯罪者かのように縄で縛りあげられる。

そんなあたしと、晋助達を担ぎ上げ、男達はまっすぐ歩き出した。

寺子屋に向かって。



















バチッバチッと、物が燃えているときに聞こえる特有の音が鳴り響いた。


そして、やはり燃えていたのは寺子屋
既に所々、灰になってしまっている



寺子屋についた途端、ドサッとまるで捨てるようにあたしたちを地面に下ろした男は、燃えている寺子屋の側で群がっている男達のもとへ合流する。



「先生ッ!!先生ッ!!!!!!!!!!!」


その奥に、男達に差し押さえられながらも、必死に叫び続ける銀時と、手を縄で括られながら銀時に背を向けて歩いている先生の姿が見えた。



「この子達には手を出さないで下さい。彼らは関係ありません。この条件を飲んでくださるのなら、大人しく降伏しましょう」

「…いいだろう」



先生が男達にそう言うと、男は少し間を開けてそれを飲む。

降伏?
いったいなんのこと…?
先生…?
なんで…


「なんの話だよっ!!!!こっち向けよ!!!!先生!!!!…くそっ、はなせっ!!!!」


暴れ狂う銀時を、男達はさらに強い力で差し押さえる。


「くっ」

『銀時っ!!!!』


痛みに顔を歪めた銀時。それでも銀時の抵抗はやまない。



「…銀時」

「っ!!!!先生…」




そんな銀時に先生は背を向けたまま、静かに語りかけた。



「あとのことは頼みましたよ」



なにいってんの…?先生



「私はきっとすぐに戻りますから」



やだ、行かないで



「皆を…、守ってあげてくださいね」



なんでそんなこと言うの…?
ねぇ、こっち向いてよ



「約束ですよ」


括られた手を指切りの形にしてそう告げた先生は、今度こそ振り返らず男達と共に歩き出した。


「先生!!!!!!!!!!!」


銀時の声にももう反応しない。



『っ…先生…!!!!』


あたしの近くを通った先生に、咄嗟に叫び声をあげる。

縄で括られているせいで身動きがとれない自分の体が憎らしい。


『やめてっ!!!!あたしたちを…置いてかないでっ!!!!ずっと一緒にいてよォっ!!!!』


まるで先生を責めるかのようなあたしの叫びに先生は動きを止める。


『せんせ…「…、すみません」…え、っ』


悲しそうに笑った先生はあたしにそう一言謝って、また歩き出した。


「先生!!!!!!!!!!!」


銀時の伸ばした手も届かない

あたしの声も届かない



『やだ…、やだよ…っ。先生っ、先生…っ!!』

















『松陽先生ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!!!!!!!!!』




届かぬ指先


(ねぇ、先生。先生は嘘つきだったね)


.
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ