桜/魂
□届かぬ指先
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食事を終えて、自分達が使った食器を洗い終えたあたしは、横でお皿を拭いている先生に問いかける。
『ねぇ先生。今日はどっか出掛けないの?最近よく外出してたでしょ』
そう言うあたしに松陽先生は少し困ったような顔をして
「すみません。寂しかったですか?」
と、今度は悪戯顔を浮かべながら、にやにやと問い掛けてきた。
『なっ!!!!ちが、違うしっ!!!!!!!!!!!!!!!』
「え〜?本当ですか〜?」
『ほ、本当っ!!!!!!!!!!!』
ふんっと赤くなった顔を先生から背ければ、その反応すらも面白そう笑う先生の笑い声が聞こえてきた。
せめてもの反抗である睨みも先生には逆効果だったようだ。
ひとしきり笑い終えた先生は、笑いで目にたまった涙を拭いながらそっとあたしの頭に手を置いた。
「ふふっ。相変わらず素直じゃないですねぇ」
『うっ、うるさい…ですっ』
小さく反抗の言葉を吐くあたしを、先生はクスリと一つだけ小さく笑ったあと、これ以上いじめることはせず、“あ!”と、なにかを思い出したかのように声を上げた。
「そうだ!忘れていました!」
突然のことに、あたしはなんのことだ、と首を傾げる
「この前物凄く綺麗な桜並木を見つけたんですよ!!」
『え?』
「だから、みんなで今日はお花見にいきましょう。咲良と銀時と、晋助と小太郎と…私で。とっても、とっても綺麗なんですよ。本当に」
もはやお皿を拭くことも忘れて、意気揚々と語る先生。
子供のように目を輝かせてそう言う先生は、あたし達とどっちが年下かわかったもんではない
あたしもクスリと一つだけ小さく笑みを溢して
『行きたいです!』
と、言えば
「そうと決まれば、準備しましょうか。あ、でも私がそこに行ったとき、そこにいた人に聞いたんですが、夜のほうがもっと綺麗なんだそうです。だから夜にいきましょうか。夜桜ですね。ふふっ」
まるで最初からそのつもりだったかのように、息継ぎすることなく一息にそう言った先生。
まったく。抜け目のないことだ。
でも、夜桜か。
それは少し、楽しみである
『じゃあ、あたし、あいつらにそのこと伝えてきますね。あと、よろしくお願いします』
食器の片付けを先生に託して銀時達のもとへ向かう
その足取りは軽やかだ。
『ちょっと聞いてぇぇぇぇ!!!!!!今日の夜先生とあたしたちで夜桜見に行くことになったわよ!!!!………って、あんたらなにやってんの…?』
「あ…咲良…、良いところに…。た、助け…て…!!」
今だ集団リンチにあっていたヅラはそう一言あたしに告げて、力尽きたのであった。
*
午後6時過ぎ
あたし達四人は、先生がいっていた桜並木の場所にいる。
『わっ…すっご…!!』
「ほぉ…。なかなかじゃねぇか」
「おいこらてめっ高杉!!なにちゃっかり咲良の手握ってやがる!!!!」
「はっはっは!寂しいのか?銀時。ならば俺が代わりに手を繋いでやろう」
「てめぇはお呼びじゃねぇんだよ!!!!」
「ふげぇっ!?!?!?!?」
『てめぇら、うっせーよ。つか晋助手、離そうか』
「ちっ」
『ちっ、じゃねーよ』
どんなに美しい物を背景にしても、あたしたちの行動は変わらないようだ。
ちょっとは、変わろうよ、と、思わなくもないが
「それにしても、先生、いったいなに忘れたんだろーな」
銀時の問い掛けにあたしは、さぁ?と短く答える。
途中まで一緒にこの場所へ向かっていたの先生は、“あぁ!大事なモノを忘れてきてしまいました!先にいっててください。すぐに追い付きますから。桜並木はこのまままっすぐいけばつきますよ”と、言ってはあたしたちを置いて寺子屋に帰っていった。
それからもう半刻
そろそろ先生もここに到着してもいい時間だと思うのだが
ま、そのうち来るでしょ
そう言おうと口を開いた時のことだった。
え、うそ…?
なんで…
どうして……?
あたしたちの大事な大事な場所、寺子屋が
真っ赤に
燃えていた
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