桜/魂


□雨降って
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それから数十分後のことだった
台所で家事をしていた松陽先生が部屋に入ってきたのは。




雨ばかりを茫然と見つめるあたしに松陽先生は何も言わず、聞かず、ただ淡々とご飯が盛られたお皿を机の上に並べていく。

そしてカチャカチャと音を立てる食器達を綺麗に並び終えた松陽先生は満足げに笑って、漸くあたしに面向けた。



ハッとしたあたしは慌てて笑顔を取り繕う


『あっ、手伝わなくってごめんなさ「雨はね降るものばかりじゃないんですよ」え…?』


あたしの言葉の上に被せられた松陽先生の言葉はうまくあたしには理解できなかった。


困惑しているあたしの様子を先生はクスリと面白そうに笑う


「雨はね、咲良。降るばかりじゃなく、打ったり、穿ったり、岩を削ったりすることもあるんですよ」


相槌さえうたせない、そんな空気を先生は醸し出す。


あたしの頭は相変わらず先生の言葉を理解していない。


「でもね、ちゃんと晴れるんですよ。雨は。どんなに強い雨が降っても必ず晴れるんです。綺麗な虹を空に浮かべてね」


そこまで言って松陽先生は口を閉じた。
代わりにソッとあたしの頭の上に手を乗せる。


撫でるような手つきは相変わらず暖かい。

涙が出そうになるのを必死にこらえた。


『………、』


あたしは再び俯いた。
その暖かさと対になるようなさっきの銀時の目を思い出したから。


「……さて、夕飯に銀時を呼んできますね」






その後部屋に戻ってきたのは勿論眉を下げて笑う松陽先生だけだった。




降って


(あー、もう)
(あたしも、ムカつくわ…)


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