√3xの心拍数


□√1×雨降って地固まって、芽が出た
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文化祭を終えてすぐにいつもの生活に戻るはずもなく校内は騒がしかった。

本当にあたしにとってはすべてが騒音に聞こえた。


「ねぇ知ってる?黄瀬くん、彼女出来たらしいよ」

「え、ウソでしょ!?あたし黄瀬くんのこと好きだったのに!!」


その言葉があたしの眉間に皺を刻む。

バレないように机に突っ伏すると誰にも顔を見られない安心からか、黄瀬のことを考えてしまった。

どうやらあの時、黄瀬に抱きついた知らない女子は同学年の他クラスの子で彼女だったらしい。

あたしの他にもあれを見たやつが居てそこから広まった。


『(ほんとムカつく…)』


黄瀬に彼女が出来たところであたしには関係ないはずなのにムカつく…ところがムカつく。

なんだかあいつに踊らされているような感じがして劣等感を感じる。

がたり、と前の椅子が引かれる音がした。


「結澄、今から一緒に将棋を指さないか。赤司と神城も来るぞ」


『ごめん、みどちゃん。あたし今ちょっと無理だわ』

「そうか」


それだけ言うとみどちゃんは自分の席に戻ってしまった。

せっかく気を使ってくれたのに無下にしてしまった。

些細なことからまた気分が沈みこむ。


と、ちょうどその時渦中の人物が来る気配がした。

案の定教室が騒がしくなった。


「咲良っち、話があるんスけど」

『…鬱陶しい。ハウス』

「俺は犬じゃ無いっスよ!?」

『だからウザい。帰れ』


自分でもびっくりするような声が出た。

いつものおふざけの罵倒ではなく、本気で人を傷つける言葉。


「…わかったっス、また後でね」


なんだか急に心細くなって後悔した。

あたし、ホントだめだ…

とりあえず今日は黄瀬を避けて、明日になったらまた元に戻ろう。

あたしは一人になるために教室を出て生徒会室へ向かった。





苛立ちから来た力をぶつけるようにパイプ椅子を引いて座る。


昼休みはここで不貞腐れることにしよう…


『やっぱ、彼女出来たらあそんでくれなくなるかな…』


今までずっと黄瀬とは楽しくやって来ていた。

アイツは恋愛沙汰に関しては人の事には興味があっても自分のことははぐらかすばかりだ。

だからあたしは今日まで黄瀬を楽しく弄ってこられたのだろう。

アイツ自身の恋愛話が出なかったから何も意識しないままでただの友達としてやってこられたのだ。

言わないだけで好きな人がいたかもしれないのに。

そして実際に彼女が出来てしまった。

あたしのような人間が居ては邪魔だろうし、邪魔し続けた結果二人が最悪別れることもある。

黄瀬が悲しむ姿は見たくない。

だったらあたしは引くしかない。


『おもちゃ取られた子供か、あたしは』


とりあえず、明日からはあいつと距離を置いてみよう。

その方がアイツにとっていいのだ。



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