桜/魂


□いつかの遠き日まで
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「「「「「「『いつもありがとうございます!!!松陽先生!!!!』」」」」」」


「先生。これ、俺達の気持ちです」



数日に渡って漸く完成した寄せ書きが、小太郎の手から松陽先生の手に引き渡された。


紙の上に書かれた色んな文字は、その一文字一文字から松陽先生への思いが詰まっていた。



丁寧に、指紋がつかないように気を付けているようにすら感じられるくらい丁寧にそれを受け取った松陽先生の目からは大粒の涙が溢れ出していた。



「あぁ…、本当に皆さん、ありがとう…」


涙を拭きもせず、心の底から嬉しさが滲み出しているような声は感謝の言葉となってあたし達まで届いた。


あたしとヅラは松陽先生に気付かれないように、人知れずハイタッチをする。

喜んでもらえたみたい



今だ泣きながら感謝の言葉を繰り返す松陽先生の背中を銀時が叩き、晋助が先生の傍に寄る。


他の生徒達も“泣くんじゃなくて、笑ってくださいよ”なんて、それぞれ満面の笑みを浮かべながら言っている。


『嬉し涙流してくれる程喜んでくれたのは嬉しいけど、あたし達が欲しいのはそんなもんじゃないよ。先生の十八番でしょ?』



笑って


あたし達みんな、先生の笑顔が大好きなのだから



「……そうですね。ありがとう、皆さん。ありがとう」



あたし達が今までで見てきた中で、一番の笑みを浮かべた先生は大事そうにその寄せ書きを抱えた。


少し妬けてしまう。
一緒に暮らしているあたし達ですら見たことのないような、最高の笑みだったから。

ちょっと不貞腐れたように髪を掻いている銀時もきっとあたしと同じ気持ちになっているのだろう
あたしと目が合うと困ったように笑った。


「ずっと…大切にします」


でも、それ以上に、

これ以上ないってくらい幸せそうに笑う松陽先生をみて、あたしも幸せという気持ちが溢れてきた。


まぁ、きっとそれも、銀時と同じなのだろうけど




襖から吹き抜ける風があたし達と松陽先生の髪を揺らしていた。



「さ、それじゃあ授業してくれよ!」「先生!」「松陽先生っ!」


軽やかな足取りで、自分の席へと戻っていく生徒達もまた、嬉しそうに笑っていてその笑みが消えることはなかった。




「さーて、それじゃあ俺は、いつものように寝っとすっかなァ」


教室の一番後ろにある襖に背をもたれさせて、刀を大事そうに抱きながら寝る体勢に入る銀時



「おい!たまにはちゃんと授業きけよ!!!!」


真面目に教本を広げながら、そんな銀時に説教をたれている小太郎



「うるせー奴は出てけっての」


頬杖をついて、ぼおっと松陽先生を眺める晋助



「こらこら喧嘩しないで」


笑ってたしなめる松陽先生



ドッと笑いが溢れるこの教室を幸せと呼ばずなんと呼ぼうか


ずっとずっと、この幸せが続いてほしい。


サラリと、真っ黒なあたしのツインテールが再び風に揺れた。



どうか

どうか…



障子の向こうに見える、満開の桜が風に舞ってひらひらと揺れ落ちてくる
きっとこの桜の花弁が全て散ってしまっても、枯れてしまうなんてことはなく、来年にはまた美しく咲き誇るのだろう。
悠然と空を見上げて咲く桜のように

あたし達のこの日常も当たり前に在り続けて




いつかの遠き日まで





小鳥の囀りと先生が教本を捲る音が静かに響いた。

舞い込んだ花弁が教本の隙間に入り込む。




「皆さん…、これから先あなた達は様々なことを学んでいくでしょう。


当然…、歩みを続けていれば様々な困難や壁にもぶつかることでしょう。


その時どうするかは、全て、あなた達次第です。


…常に皆さんと一緒にいられるかどうかはわかりません


ですから、まず最初に、皆さんへこの言葉を贈ります」



松陽先生の唇が、ゆっくり…ゆっくりと、その言葉をつむいだ






“――――――――”



(それはここにいる全員にとって永遠に忘れることのない…)
(特別なモノ)


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