√3xの心拍数


□√3×歌で幕あける最高の舞台
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ざわざわと騒がしい体育館。

しかしそれはつまらなさから生まれる暇つぶしの会話ではなく、互いを叱咤する声だった。


《静かにしてください。…静かにしてください》


機械を通した硬質な声に全員が耳を傾ける。


《これから合唱コンクールを開催します》


ぱちぱち、と拍手が沸き起こる中でこそこそと話している人影。


『始まりましたね、合唱コンクール!』

「ん〜知紗ちんテンション高いね〜」

『というわけで寝ますんで出番来たら起こして下さい!』

「…どういうわけ?」


しかし、紫原の声は届くことなく空気に溶けた。

隣を見ると器用にも寝ている知紗がいた。

しかもご丁寧に涎まで垂らしている。


「知紗ちん……可愛い…」


ほっぺたをぷにぷにと突いてみる。


「……フーセンガムより柔らかいかも〜?」


そして紫原はほっぺた突きに邁進するのであった…



それから何分たったのかは分からないが放送部の声が聞こえてきた。


《続いて二年生です。二年……》


ほっぺた突きに邁進していた紫原は正気に戻って知紗を起こす。


「知紗ちーん、出番来たよー?」

『本当ですかっ?!よし、行きますよ!!』


一瞬で目を覚ました知紗はぴょこぴょこと所定の位置に入り、ステージ上に並んで行く。


《合唱の前にクラス紹介です》


「頑張って!雪村っち!」


黄瀬の声にウインクを返しつつスタンドマイクを横に退けて大きく息を吸い込む。

見慣れた体育館を見渡す途中で見慣れた青を探す。

すると右後方の集団の一番前で割と真剣に話を聞いていたらしい青峰と目があった。


『(クスッ)…学年優勝目指します!他のクラス覚悟ォっ!!!』


小柄な体から出たとは思えないくらいの音量が体育館に響く。

体育館がどよめくが気にもせず、青峰をもう一度見て列に戻る。

今自分は世界で一番幸せなんじゃないかと知紗は思った。

咲良や珠央、クラスに生徒会、仲のいい友達、全部が全部今この瞬間に集まっている気がする。

嬉しいような恥ずかしいような気持ちが笑みになって表に出る。

そして指揮者がタクトをふりあげて曲が始まった。


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