桜/魂


□置き忘れた温もり
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あたしが辰馬と出会ったあの日から、既に数ヵ月の月日が流れた。


戦力的にも人数的にも既に限界だったらしいあたしの隊は、辰馬の隊と合併することが決まり、そしてその隊は今辰馬が率いていた。
(うちの隊長?あぁ、あのヘタレが辰馬に勝てるわけないでしょ?)






『なーにしてんのっ?』


戦場にしては珍しく晴れた綺麗な空を真っ直ぐ見上げる奴の姿を見付けた。

返り血が所々付着した奴の姿は、なんとまぁ、この光景にはミスマッチであるが、奴自身に大した外傷は見受けられないし、別段気にすることもない


『…ちょっと辰馬?聞いてる?』


それなりに大きな声で話し掛けたにも関わらず、返答どころか此方を振り返りもしない辰馬

肩を揺さぶっても、応答1つ返ってこない。


「さっ…、坂本殿…っ!!まさか…」


今回あたしと一緒の陣営だった人達があたしの後ろでざわめき始める。


そんなっ
まさか…

外傷は見受けられないけど、もしかしたら見えてない場所を怪我して…!
頭を強打したとかっ、っもしかしたら天人の未知の武器で…?


やだ、やだっ辰馬…!


『ッ辰っ……「おっぱいがァいっぱいぜよおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!」



……………。




『………は?』


どうやら辰馬が戦死したというあたしの心配は杞憂に終わったらしい。

っていうか、え?おっぱいがいっぱいってなに?
え?なに?言葉の意味がよく理解できないんだけど
え?



「ん?おぉ!咲良達じゃなか!無事でなによりじゃ!おぉそうじゃ!おまんら一緒に!Let'sおっぱあああああああああぁぁぁぁぁ…ぶへらっ!?!?!?」


聞くに堪えなかった。


「なんじゃァっ!?!?!?何をしゆうがか…っ!?!?!?」


今日一番の怪我をたった今負わされた辰馬は赤く膨れ上がったその頬を必死に押さえている。

あーすごいすごい。
膨れ上がった頬っぺたを手で強く押さえてるおかげで、あんたのだぁ〜い好きなおっぱいを揉んでるみたいよ
よかったねー


「どうせならおんしのおっぱ『おっし、野郎共ォ!こいつ簀巻きにして海に捨てるわよっ!!!!!!!!!!!!』」

「「「へい!!!!!隊長!!!!!!!!!!!!」」」

「隊長わしィィィィィィィィ!?!?!?」


辰馬にではなく、あたしに向けられて発せられた言葉は、誰がどうみても納得できるものだろう

まぁ、あたしに絶賛足蹴にされてるこの男が隊長だなんて、誰も思いはしないわよね


『詐欺師の間違いでしょ。もじゃもじゃ』


吐き捨てたこの言葉に間違いはない。
辰馬自身も反論はないのだろう。
そのもじゃもじゃの頭を掻いては少し困ったような顔を浮かべいた。


坂本辰馬という男の戦いは剣ではなく商という武器を使う。
資金の工面や武器の調達まで、
今あたし達の隊がうまく機能してるのは辰馬がいるからだろう。

それ故に、こいつはこの隊の隊長(仮)であるのだ。


「あっははっ。…なんで今(仮)つけよったか?」


そしてあたしはというと、このバカを支えるために副官のような立場を担っている。
(まぁどっちかって言うと、あたしのほうが支えられちゃってるんだけど)


龍と鬼。


ここいらでは名の知れた通り名となっていた。




「へい!隊長!辰馬殿の簀巻き、完成しやした!」

『御苦労』

「ホントに捨てるがか!?!?!?」


簀巻きにされた辰馬がついに焦ったのか今更ながらに暴れだす。

観念してさっさと海の藻屑になりやがれ



「待っ、ちょお待つぜよ!!!きょ、今日は大事な話ばあるき!!!!!!!!!!!!早まってはいかんぜよっ!!!だからhelp!!!help meぜよ!!!」

『なんで攘夷志士なのに無駄に外来語が上手いのよっ!!!…………チッ。降ろして』

「「Hey!Boss!!!」」

『お前らもかっ!?!?!?』






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