桜/魂


□地固まる
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雨は止んだけど、あたし達の雨はあれからずっと降り続いたままだった。


今度は会話もない。
目もあわさない。
まず、近付いただけで逃げられる。


はっきりとした拒絶の態度は、あたしらの中だけでなく、周りの連中まで気付く程で、寺子屋では何人にも“どうかしたのか”と聞かれた。


松陽先生だって困り果てた顔をしている。


「はぁ…。何があったんだァ?てめェらがここまで喧嘩するなんざ今までなかっただろーが…」

『何があったかなんてあたしが聞きたいわよ…』



ついにはあの晋助にまで言われる程で、ことの重大さを改めて思い知った。



あたしを見ているとムカつく
あいつは確かにそう言った。

ずっと…
小さい頃からずっと…、あいつはあたしをそんな風に思っていたんだろうか…



握りしめた拳に爪が食い込む痛みを感じた。


「………そーいやよォ、今日は試合するらしーぜ」

『試合?組み合わせは?』





**


道場に貼り出された紙を見て、呆然とした。

その紙には“咲良 対 銀時”
松陽先生の綺麗な字で、そうくっきりと書かれていたから。


ツインテールを翻して反射的に銀時の方を振り向けば同じように驚いた表情をしていた。

しかし、あたしの視線に気付いたのかその表情はすぐに引っ込められてしまい、あたしの方を振り向くことなく、少し離れた場所まで歩いていってしまった。



『……っ』



銀時がその場から動いたのを封切りにして、他の者達も、自分の対戦相手を確認し終えたのかそれぞれの場所に散っていった。

ついにはだれもそこにはいなくなっていて、固まったように動けないでいたあたしも、やっとそこから動くことができた。




「えー、それじゃあ今日はそこに貼っている紙の組み合わせで試合をしてみましょうか。まずは島田くんと小太郎、出てきてくれますか?」


みんなが確認したのを見計らって、先生はそう号令をかけた。

まず、初戦は島田とヅラ


「一本!」


流石はヅラで、容易く島田から勝ち星を得た。


その後も晋助や他の寺子屋のメンバー達の試合が続いた。



その始終、対戦相手ではないはずなのに、晋助と銀時が睨みあっていたような気がしたのは気のせいなんだろうか…



そして試合は進み、ついに、あたし達の順番まで回ってきた。


あたしは竹刀を握りしめ、ゆっくりと立ち上がる。

同じように立ち上がった銀時の顔は俯いたまま。




今は集中しないと…っ




邪念を振り払うように頭を左右に激しく振ったのち、道場の真ん中まで進む。


向かい合うように立ったあたしたちは、あのとき以来初めて目を合わした。



やっぱり綺麗な目だな…、なんて場違いなことを思ってしまった。




「『お願いします』」



お互いにお辞儀をして少しの距離をとる。
その中心で松陽先生は片手を振り上げた。

そしてその振り上げた手を、まるで刀で斬る時のように一気に降り下ろして


「試合、始めっ!」




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