桜/魂


□雨降って
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パリッ、と煎餅の乾いた音が部屋の中で響いた。


窓の外ではまさに突くような、刺すような厳しい雨が降り続いていて、窓を閉めていても五月蝿いくらいに音が中に入ってきていた。



パリッ…



今日はこの雨のせいで、寺子屋に生徒達は誰もいない。
此処に住んでいるあたしと銀時を除けば



パリッ…




『その煎餅、美味しいの…?』

「ん、食ってみれば」



パリッ…

一枚、一枚と銀時の口の中に消えていく煎餅を始終見送れば、そんなあたしの視線に気付いたのか銀時は“何?”と訊ねてきた。


『いや、別に…』

「そ」

『………、』



銀時があたしを拒絶したあの日以来、銀時の態度は前のように戻った。
あたしを避けることもなければ、普通に話もする
あれはやはり嘘だったのでは…


いや、違う
やっぱりあれ以来違う
おかしいんだ
銀時、というよりもあたしが


思い出す度にツキリと胸が痛む
モヤモヤとした感覚は日に日に強さを増していく。

そして決まって見るのだ
銀時があの日のように、いやもっと強くあたしを拒絶をする夢を…


『はぁ…』




あからさまな程に出た大きなため息はほぼ無意識のモノだった
あっ…。と、慌てて口を塞ぐ

しかしそんな行為は無駄だったようで先程まで煎餅にご執心だった銀時はこちらに目を向け、どうした…?と口を開く。


『んーん…ごめん、なんでもない』

「お?そうか…?」



すると銀時はあっさりと引いてしまった。

それに少しの違和感を感じてしまったのはあたしが最近あの夢を見すぎているせいだろうか…

ドクドクッと冷たく脈打つ心臓を押さえつけながら、意を決したように息を吐き出して“銀時…”と投げ掛けた。


銀時は振り替える。



けど、




「あ…?どうしたんだよ?さっきか『ねぇ』…おう」


『なんで、あたしの目みないの?』



すると今度は銀時の方が、息を飲むような音を立てた。


思えばずっとだ。
こちらを振り向きはするけど、銀時の目はあたしの目を見ていない。
あれから、ずっと


ふと、銀時が食べかけてある、半分欠けた煎餅を一瞥して、ゆっくりと銀時に視線を戻す。

するとやはり銀時はあたしの視線から目をそらした。



『あたしさぁ、あんたに何かした?はっきり言ってよ』

「いや…」


始終あたしと目を合わせない銀時は罰の悪そうな顔をするでもなく、無表情だった

そして、あたしの質問にも明確に答えようとしない


眉間に皺がよる。

『ちょっと!ちゃんと答えなさいよっ』

そう言って銀時に触れようとしたときだった。



パシッと、煎餅が割れる音とはまた違った乾いた音が部屋に響いた。



『え…、なに』


右手がじんじんとする。
んでもって熱い

払い除けられた右手は赤くなっていて、銀時がどれだけの力をこめたのか示しているようだった。


そして、あたしの中でもうひとつの事項がくっきりと頭に浮かび上がる


また拒絶されたんだ、あたし


夢と合致するような今の現状を、あたしの頭はまた夢を見ているかのような感覚を繰り広げる。

でも、これは夢じゃない




「っ触んな」



冷たく刺さるような銀時の声は、ようなではなく本当にあたしの心を突き刺した。


ジッと、凍えるような冷たい目で銀時は漸くあたしと目を合わせた。

けれど、今度はあたしが銀時から目を逸らしてしまった。


「ムカつくんだよ、お前ェ見てっと。だから目合わさなかったんだ」


それだけ言って、銀時はゆっくりとその腰を上げる。

俯いているあたしには銀時の足しか見えない


そしてその足すらも、どんどんと視界から消えたいく。


『ぎ…とき…』


銀時の足が視界から消えて、ハッと顔を上げる。


『銀…っ時…』




もうこの部屋にはあたししかいなかった。







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