―心なき歌姫―
□初めの始まり
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幸せな3人を乗せた車に前方からガソリンタンクを積んだトラックが迫っていた
キィィーッ
ブレーキ音を立てながら真っ直ぐ3人が居る車に迫る
「「あぶない!!」」
母と月夜は叫び、父はすぐさまハンドルをきった
が、間に合わず…
キィィィーッ
ドッンッ
バチッバチッ
ブワァ!!
トラックと正面衝突し、漏れたガソリンに火花が引火し炎上しだした
月夜は全身が軋む音と痛みで目を開けると、冷たい道路上に倒れていた
視線を前方に向けると、そこには先程まで自分が乗っていた車とトラックが燃えていた
辺りには車の破片だけが散乱しガソリンの臭いが漂っており、この事故の激しさを物語っていた
月夜は痛む体に鞭を打ち、立ち上がった
騒ぎを聞きつけ人が集まってきていたが月夜の目には入っていなかった
月夜の目には今なお燃える車を写すだけだった
「うそ…でしょ?おとう、さん?おかあさん?
ねぇ、嘘だって言ってよ!嫌だ…嫌だ…お父さん!お母さん!」
意識が朦朧とする中、一歩また一歩と進む
「お父さん…お母さん、私を置いていかないで…」
また一歩車に向かって歩いていく
「駄目です!!行ってはいけません!!」
騒ぎを聞きつけ集まっていた人の中から一人、月夜と同い年位の男の子が駆け寄り月夜を抱き止めた
「嫌!!離して!私もお父さんとお母さんの所に行くんだ!!
2人は苦しんでいるのに私だけ生き残るなんて」
彼の腕から逃れようと暴れる月夜に言い聞かせるように落ち着いた声が響く
「貴女も死んだらご両親は喜ぶのですか?
喜ばないでしょう。きっと貴女のご両親は貴女に生きて欲しいと望むはずです。なら、生きることが貴女がご両親の為に出来ることでしょう」
ふと暴れるのを止めた月夜は、膝の力が抜け地面にへたり込んだ
「私が…あの時、歌を…歌を歌ったせいだ…。だから、こんな…こんなことになったんだ…。私のせいだ…。ごめんなさい…お父さん…お母さん…」
ここで彼女は意識を手放した
最後の言葉をきいた男の子は、一瞬目を見開いた後悲しい表情をした
彼の腕の中で涙を流し、闇にのまれていった月夜