哀しみの先に

□第二章
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ダダダダダダダァァァ

砂埃を巻き上げこちらに走り寄ってきたフードを被った栗色の毛の女性、アメリーはスゴい形相で走ってくる


シンドバッドに肩を抱かれたノアに慌ててノアに飛びつく

「ノア様ノア様ノア様ぁあ!

ご無事ですか?お怪我はしていませんか?

あぁノア様の綺麗な御髪が埃まみれじゃありませんか!?早く宿に戻って湯浴みをっ!!いえ、先に治療でしょうか。すぐに医者をっ。

あ、いえその前に私目がノア様をこんな姿にした者を抹さ…絞め殺…成敗してまいります!」


「変わったお姉さんだね」
アラジンがポツリと呟いた

わたわたと慌ただしいアメリーに皆が騒然とする中、ノアはため息をついた


「アメリー」

「はい、何でございましょうノア様」

バッと顔をこちらに向けるアメリー

まるで、尻尾を振るイヌのようだ

「アメリー、落ち着きなさい。
湯浴みは宿に戻ればいつでも出来る。髪も洗えば問題ない。

私がこんななのは、いつもの自分のために私が勝手に一人でやったことだ。アメリーが心配するようなことじゃない。」


「しかし、ノア様…」

言い返すアメリーにノアの視線が突き刺さる

「申し訳ありませんノア様」


「フフ、分かればよろしい。」
ノアは自分を抱いているシンドバッドを見上げた

「シンさん、紹介するよ。彼女は私の侍女兼四人将の一人アメリーだ」


「アメリーと申します。先ほどは取り乱し、みっともないところをお見せしました。」

ぺこりと頭を下げたアメリー


「気にしていないさ、頭を上げてくれ。


では、こちらも紹介をしよう。

ジャーファルとマスルールだ」
隣にいるジャーファルとマスルールを指さし紹介するシンドバッド

「えぇ、存じ上げております。ノア様から度々お話は聞いております。

よろしくお願いいたします」

「えぇ、こちらこそ。」

アメリーとジャーファルが握手をするのを眺めていたノアはあることに気がつく




「アメリー、ハルトはどこにいるんだ?」

「ハルトは今、けが人の手当に当たっております。」


新たに出てきたハルトという名前に首を傾げるシンドバッド

「ハルトとは?」


「今回連れてきたもう一人の将です。


そうか、けが人が多いならここで時間を潰すのは勿体ないね」

「あぁ、そうだな。霧の団のアジトに戻ろう。

ノア、勿論来てくれるね?」

「えぇ、行くわ」


そういうとシンドバッドは軽々とノアを横抱きにした


「では、戻ろうか。

積もる話もあるが、あとでにしよう」







――――――――――――――――――――――――――――




霧の団のアジトの一室にノアとアメリーの姿があった



ノアは椅子に腰掛け、アメリーがノアの髪を櫛で解かしていく

以前より伸び、今では背中の中程の艶のある黒髪に櫛が滑らかに滑る



ノアは椅子に座りながら愛刀の手入れをしていた


刃こぼれや歪みがないか入念に確認し鞘との滑りを確認し終え、鞘に戻すとカチンと心地よい金属音がする

愛刀を机の上に置くと両耳についているピアスを手で覆う

「慈愛と真実の精霊よ。汝と汝の眷属に命ず、我が魔力を糧として我が意志に大いなる力を与えよ。いでよ、カイム」


するとふわりと風が吹く

ノアは両手を話すとそこには二つの水晶があった

一つはふわふわと宙に浮き、一つは手の中に収まったまま

ノアはじっと水晶を見つめる


水晶には様々な様子が映し出されている






アメリーは懐から布に包まれていた装飾品を取り出すとせっせとノアに飾っていく



心なしかアメリーは微笑んでいる

それに気づいたノアは水晶から目を離し溜息をつくのだった



「アメリー、あんまり多くは飾るなよ。重くなる」


「そんなことありませんよ。それならば、ノア様のその刀の方がよっぽど重いではありませんか。



それにノア様はお美しいのですから、着飾らないのは勿体ないです」

そういいながらアメリーはノアの髪を簪で纏め上げ、横に垂らしておいた髪を三つ編みにし始めた

「本当はノア様だってよいお年頃、旦那の一人や二人居ても可笑しくないのですから…」
「…今は誰であろうと旦那として迎え入れるつもりはないよ。それよりもやることがたくさんある。まだまだハイノイ国は豊かに出来る。ハイノイ国が安定したら考えるよ」


アメリーはその言葉に悲しそうに微笑むのだった



この方はいつになったら幸せになれるのだろう。国の為に自分を犠牲にして、今は随分と前に比べ安定してきたのにこの方はまだ先を望む。一体いつになったらこの方は納得して下さるのだろう。いつになったら幸せに笑って下さるのだろう。


アメリーはただずっと自分の主の幸せを願っていた


そうこうしていると三つ編みも終わり、綺麗な髪飾りで止める





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