夢の世界へ2
□許されない恋をした
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幼い頃から海軍に憧れ、他の職に就くこともなく海兵として十年間ひたむきに正義を掲げていた。
女である私が海兵として生きていくのは安易な事ではなく、昇格する度に周りの男達からは妬みの含まれた視線や言葉を浴びせられたものだ。
だけど、そうまでされても此処に留まっていたのは………貴方に憧れていたから。
「クザンさん。先の遠征の報告書、完成したので目を通していただけますか?」
「んァ?あー…、うん。ご苦労様、マリアちゃん」
「労いの言葉は結構ですから目を通して下さい。そして寝ないで下さい…!」
十年という月日を経て私は中将という肩書を貰い、同時にこのだらけきった大将の補佐官として勤めていること数年。
このくだりも好い加減慣れたもので、しつこく咎める私に観念したのか…デスクに突っ伏していた大将は徐に書類を受けとった。
「うんうん…これで良いね。おれがセンゴクさんとこ届けに行くから、マリアちゃんは部屋の掃除お願いできる?」
「青雉さんが戻ってくるまでに、出来るだけデスクの山は消化しておきます」
「あららら。そんな眉間にシワ寄せてっと彼氏出来ないんじゃないの?」
知らず知らずの内に歪ませていた眉間に、大将の長い指がピンと跳ねる。
「…青雉さんだって、イイ歳して独り身ですよね」
「おれァほら、引く手数多なのよ」
モテる男は辛いよ、と大袈裟に息を吐く大将。マリアはチクリと痛んだ胸に気付かないフリをして笑ってみせた。
「そんな事ばかりしていると、本気で御慕いする方が現れた時…後悔しませんか?」
「…ん?本気のコなら居るよ?」
「え……?」
「結構前からかなー。彼女の頑張る姿に惚れたのよ、あァ要するに片思いね」
……知らなかった。
この数年こんなにも彼の傍に居て、毎晩のようにフラフラと夜の街に消えていく彼をどんな思いで見ていただろうか。
それでも救われたのは、色んな女性と関係を持つ彼が…恋人という女性だけは作らなかったからだ。
「青雉さん、本命の方がいらしたんですね…」
自分は今、どんなカオをしているのだろう。声が掠れているのは気の所為じゃないと思うのだけど、今はどうしても彼のカオが見れない…。
「まァ、片思いだけどね」
「…気持ちは伝えたんですか?」
「いーや、この歳になると…真正面にぶつかるのは怖くってさ。実は臆病なのよ、おれ」
「そ、ですか…」
「だけどずっと好きだよ。この想いは変わらない」
やっとの事で上げた視線も、目に入ったのは優しく笑う貴方で。ああカオを上げなきゃ良かったと思った。
「…青雉さんにそこまで想われて、その人はきっと幸せなんでしょうね」
濁った瞳で彼をすり抜け、窓の外を見ながら呟いた私に、「そうだと嬉しいんだどね」と彼が微笑んだ。
それから再び月日は流れ、天気が良いからマリアを連れてチャリンコデードでもしようかと、青雉はふらふら本部を歩いていた。
「……クザン!!」
「ん〜?誰だ………っと、あららセンゴクさんか」
背後から浴びせられた怒声に振り向けば、殴りかかってくるんじゃないかという勢いで自分を睨んでいる上司。
「マリア君に聞いても解らないと言われたから探してみれば、また貴様はフラフラしおって!仕事はどうした、仕事は!!」
「仕事は、あー…。マリアちゃんが…」
「馬鹿者ッ!!!」
「これからチャリンコで、」
「行かせる訳ないだろう馬鹿者!!貴様に話しがあるから私の部屋に付いて来い、馬鹿者がァ!!」
「…あららら。やっぱりこうなるのね」