夢の世界へ2

□切り捨てた世界
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父さんを困らせるお前が悪いんだ

ああヤダ、気持ちの悪い子ね!

姉さんて、本当に馬鹿よね


だから、


『…消えてしまえば良いのに』







「………ッ!」


跳びはねる様に上体をお越し、乱れる呼吸に肩を震わせた。窓から除く満月を見詰め、震えが治まらない身体を両腕で包む様に抱きしめる。イヤな汗がパジャマに染み込み、ピッタリとくっつくそれが益々不快感を煽った。


「……また、あの夢」


悪夢だ、と言いたい所だが夢では無い。実際は現実で起きていた事が、夢にも出て来ただけ。要するに、寝ても覚めても地獄なのだ。




幼い頃に病気で母が他界し、男手ひとつで育てられた私は父が大好きだった。母が居ない生活に寂しさを覚えた事もあるが、それを感じさせないくらいに父からの愛は大きかった。


だけど中学に上がった年、父が現在の母である“あの人”を再婚相手として家に迎入れた。その時の私は、父が選んだ人だからきっと素敵な人なんだと、信じて疑わなかった。そしてその日から、新しい母と、母の連れ子である二つ年下の妹が家族になったんだ。


「宜しくね、マリアちゃん」

「マリアお姉ちゃん、一緒に遊びましょう!」


美しく微笑む母と、無垢な笑顔を向ける妹を見て、私の父は満足げに幸せな笑みを私に向けた。お姉ちゃんと呼ばれた事に、若干の恥ずかしさを覚えながらも、この時は私もしっかりと笑っていた筈だ。


だけどその時の私は勿論、父でさえも…これから起きる悲劇を誰が想像しただろうか。





違和感を感じたのは些細な事からだった。


「お母さん、制服のボタンが外れちゃった」

そう言って左袖の外れた部分を母に見せると、「あら大変、じゃあこれどうぞ」と言って裁縫箱を私に手渡した。私はもう中学生になったのだから、自分でやるのは当たり前なのだと思っていたが、妹が同じ様にボタンが外れた時、決まって母は妹の制服を大事そうに直してあげていた。


また、妹と一緒に出掛けた時、たまたま妹が転んで膝を擦りむいた事があった。「こんなの痛くないよ」と言っていた妹だったが、家に帰った途端母に泣き付き、私に押されて怪我をしたと叫んだ時は驚いて何も言えなかった。そして頬に激しい痛みが走り、「悪いお姉ちゃんね!」と母に言われ、その時になって母に殴られたのだと気が付いた。




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