雲が薄くたなびく、ただの平凡な晴れた日だった。彼のシンボルである、よく解らない薄っぺらい瓢箪みたいな形の武器。それに大事な背中を任せ、国境の草原を一人で歩いていた。
息を切らしながら追い付いたものの、彼を見て引き止める台詞が吐け無かったのは、私の意見で己の道を曲げるような、生半可な男では無いと…私は彼を理解していたからだ。
「行くの?」
「凛音か」
チラっと私を捉えたマダラの瞳は赤かった。だけどその色は、昔と今とじゃ随分と深みが異なって見えた気がした。
「木ノ葉を裏切るなら、もう貴方は私の頭領でも何でもない。ただの敵よ?」
「頭領など、アイツと手を汲んだ時に捨てた肩書きだ」
興味は無い、と。つまらなそうにマダラは再び歩きはじめた。
「…私、結婚するかもしれない!」
自分の脳裏に、塵ほども恋心を抱いていない男の顔が浮かぶ。と言っても、この時代に恋愛結婚など数える人達しか成せていない事は、もちろん承知している。
この時代でタイミングとチャンス。そして自分の気持ちに泥を塗らない者だけが、幸せを勝ち取れる。簡単なようで、難しい。
だけど、そんな屁理屈を並べている時点で、どうやったって私に幸せは掴めないのだと改めて実感した。
「だから、オメデトウって言ってくれる?」
ああ、どこまでも私は愚かな女。
「………」
「祝ってくれないの?」
「結婚なら、勝手にすればいい」
「…お祝いの言葉は?」
淡々と答えたマダラに、胸がチクリと痛む。
「これから里を抜ける人間に、祝いの言葉など求めるな。虫酸が走る」
「酷い言われようね」
昔はいつも三人一緒で遊んでいたのに。流れる時間は余りに残酷で、歳を重ねる度に夢は朽ち果て、代わりに現実が押し寄せる。いつから私達は…その波に溺れてしまったのだろうか?
「…凛音、」
ただひとつ、マダラは私と異なった。それは彼が、彼にとっての揺るぎない夢を抱いたこと。それは今の彼を支える“絶対"。
「なに?」
三人の中で私だけ、波から抜け出せないまま沈んじゃったんだね。
「お前はいつまでも、ただ俺の脚にしがみつくだけの女に成り下がるな。お前にはお前の道がある」
「そんなこと、わざわざ言われなくても分かってるわよ」
「…そうか、じゃあな」
黙ってヒラリと手を振ったマダラに、返事はしなかった。が、マダラが景色の中に消えるまで、私は彼をいつまでも見守った。この先の運命が、貴方にとって苦しみのない世界でありますようにと。