夢の世界へ

□貴方こそが悲劇
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雲が薄くたなびく、ただの平凡な晴れた日だった。彼のシンボルである、よく解らない薄っぺらい瓢箪みたいな形の武器。それに大事な背中を任せ、国境の草原を一人で歩いていた。


息を切らしながら追い付いたものの、彼を見て引き止める台詞が吐け無かったのは、私の意見で己の道を曲げるような、生半可な男では無いと…私は彼を理解していたからだ。






「行くの?」


「凛音か」


チラっと私を捉えたマダラの瞳は赤かった。だけどその色は、昔と今とじゃ随分と深みが異なって見えた気がした。


「木ノ葉を裏切るなら、もう貴方は私の頭領でも何でもない。ただの敵よ?」


「頭領など、アイツと手を汲んだ時に捨てた肩書きだ」


興味は無い、と。つまらなそうにマダラは再び歩きはじめた。


「…私、結婚するかもしれない!」


自分の脳裏に、塵ほども恋心を抱いていない男の顔が浮かぶ。と言っても、この時代に恋愛結婚など数える人達しか成せていない事は、もちろん承知している。


この時代でタイミングとチャンス。そして自分の気持ちに泥を塗らない者だけが、幸せを勝ち取れる。簡単なようで、難しい。

だけど、そんな屁理屈を並べている時点で、どうやったって私に幸せは掴めないのだと改めて実感した。




「だから、オメデトウって言ってくれる?」


ああ、どこまでも私は愚かな女。


「………」


「祝ってくれないの?」


「結婚なら、勝手にすればいい」


「…お祝いの言葉は?」


淡々と答えたマダラに、胸がチクリと痛む。


「これから里を抜ける人間に、祝いの言葉など求めるな。虫酸が走る」


「酷い言われようね」


昔はいつも三人一緒で遊んでいたのに。流れる時間は余りに残酷で、歳を重ねる度に夢は朽ち果て、代わりに現実が押し寄せる。いつから私達は…その波に溺れてしまったのだろうか?


「…凛音、」


ただひとつ、マダラは私と異なった。それは彼が、彼にとっての揺るぎない夢を抱いたこと。それは今の彼を支える“絶対"。


「なに?」


三人の中で私だけ、波から抜け出せないまま沈んじゃったんだね。


「お前はいつまでも、ただ俺の脚にしがみつくだけの女に成り下がるな。お前にはお前の道がある」


「そんなこと、わざわざ言われなくても分かってるわよ」


「…そうか、じゃあな」




黙ってヒラリと手を振ったマダラに、返事はしなかった。が、マダラが景色の中に消えるまで、私は彼をいつまでも見守った。この先の運命が、貴方にとって苦しみのない世界でありますようにと。






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