夢の世界へ
□幸福とは掛け離れた
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満開の桜が咲き誇る下で、彼女は木にもたれ掛かる様にして俯いていた。
俺に気付いた凛音は、パッと花が咲く様に笑い、小さな身体を揺らしながら大きく手を振る。
…彼女は綺麗だ。
あの桜の木にも負けないくらい、淡い輝きを放っている。…それは余りにも眩し過ぎて、俺の眼ではたまに見えなくなる時がある。
「イタチ、久しぶり。最近会えなかったから、心配してたんだよ?暗部の任務は、色々と大変だって聞いたから…」
「凛音の心配する事じゃないさ」
俺は上手く笑えているんだろうか?
「でもイタチ、疲れた顔してる…」
そっと、凛音の細い指が俺の頬をなぞった。憂いを帯びた眼差しで見詰められても、今はただ笑うしかないんだ。
「い、イタチ……?」
抱きしめれば一層感じる彼女の細さに、いつも不安を感じていた。俺が凛音を守ると、約束してからどれだけの歳月を重ねただろうか。
「凛音、今夜は……綺麗な満月が見れるそうだ」
「…そうなの?」
「夜になったら、迎えに行く。…俺が来るまで家で待っていてくれないか?」
「嬉しいな、イタチとまた会えるなんて」
今夜、全てが終わる…
力一杯に彼女を抱きしめて、この儘全てを取り込んでしまいたかった。これ以上触れるなと、異常な警告を発している神経を無視して抱きしめた。
凛音の肩に自分の顔を乗せた途端、生暖かい雫が頬を伝った感触に少しの安堵を覚え、あぁ…俺は未だ大丈夫なんだと自分に言い聞かせながら、彼女には気付かれる事の無い様に、嗚咽など漏らしはしない。
「……必ず、迎えに行く」
だから、
もう少しこの儘でいさせてくれ。
もう二度と、
凛音の全てに触れる事は無く…
俺自身、触れたくも無いのだから。
傷みにさえ、
痛みを重ねる事は出来ないとばかりに…
―――…グチャリ
幸福とは掛け離れた
(生暖かい感触に、二度と眼を開けたくは無かった)
*後書き
短編では初イタチなのに、なにコレ。
自分よ……甘いものに飢えてくれ。