夢の世界へ
□幸福とは掛け離れた
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――――グチャ、
喉がカラカラで、それを少しでも潤したくてコップに手を伸ばし、温くなった水を含んだ。
ゴクッと一度だけ大きく音を鳴らし、ソレは胃へと落ちて行く…が、未だ潤みを持たない事に辟易し、投げ飛ばしたコップから水が漏れ、畳に染み込んで行くのを只々見詰めていた。
丁度こんな風にだ…
あの日からずっと、ドロドロとしたモノが身体に流れ込んでいる。止める術は無く、いつしかそれは身体の奥深くまで浸食して、今も尚…蝕み続けている。
「……イタチ?」
「………どうかしましたか、母さん」
「お昼の準備が出来たわ。サスケも父さんも待ってるから、早くいらっしゃい?」
「…すみません、これから人と待ち合わせしているんです」
「あら、もしかして凛音ちゃんと?」
「……」
「それなら早く行ってあげなさい。女の子を待たせたらダメよ?」
それには答えず頷くだけで、母さんの横を通り過ぎ様とした。
「最近、疲れているみたいね。しっかりご飯も食べないと力が出ないわよ…?」
心配していたのだろう…
だが、背中に触れた母さんの掌が生暖かくて、そこから全身の細胞が粟立つ感覚に、思わず口を覆った。
「………か、はっ」
「イタチ!?」
「っ…俺に、触らないでください」
驚いた。
目を見開き、口を薄く開ける母さんの表情を初めて見た。いつもサスケに怒る姿と、同じくサスケに微笑む顔しか見た事が無かったから。
「済みません、母さん…」
俺は一体、何に対して謝ったのだろうか。
「……兄さん、」
どこか怯えた様な、小さな声が後ろから聞こえる。それを無視して靴を履き立ち上がった俺に、サスケは続けた。
「父さんが、兄さんを呼んで来いって…」
「………」
もう、ウンザリだ。
「兄さん?あの、オレ…」
「父さんに、謝っておいてくれ」
「兄さん……!!」
大好きだった弟の声を、身体が拒絶する様になったのはいつからだったか。
目を合わせたのも、笑顔を見たのも、飛び跳ねる様な明るい声を耳にしたのも…
いつから消えてしまったのか、もう思い出せないんだ。
後ろから近付いて来る弟の気配を感じながらも、気付かないフリをして扉を閉めた。
ピシャリと響いた音が、俺と家族を遮断した様な錯覚を起こし…再び吐き気を催しながらも、余計に自分の立ち位置が解らなくなった。