小説

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君のことを分かっている、なんて、とんだ勘違いだったのかな。

初めて出会った時にビビッときた。
なんていうのは嘘だ。
お互いを認識してるような、してないような。
君は何人かのうちの1人で、僕も何人かのうちの1人。
個としてお互いを見ていなかった。
2回目に会った時に、たまたま君と触れ合った。
本当にたまたまだったんだけど、それでも確かに君を選んだ。
君との生活は何もかもが手探りだったよ。
何が好きかな?嫌いなものはなにかな。
どのくらい構っていいのかな。どれくらいちょっかいだしていいのかな。
正直、不安だらけだったよ。
でもね、
名前を呼ぶと振り返ってくれて、素直に喜んでくれて。
一緒に遊んで、でも時々イタズラに怒ったりしてね。
一挙一動が愛おしくてたまらなかった。
そうやって、毎日一緒に過ごしてきた。
なんとなく、好きなものがわかってきたのに、なにで怒るのか、感情が読めるようになってきたのに。
それなのに、もうお別れなの?
あんまりにもあっという間で、自分の心が追いついてこない。
いつかくるこの時期を覚悟していたはずなのに、どうしてこんなにざわざわするんだろう。
どうしてこんなに涙が出るんだろう。
もう前みたいに遊べなくなっちゃったね。
ご飯も食べられないんだね。
動くのもおぼつかなくなってきたね。
名前を呼んでも反応できないね。
きっともう聞こえづらくなってきたんでしょう?目も見えないんでしょう?
ただ見守ることができなくて、病院に行ったけれど迷惑だったかなあ。疲れちゃったよね。
何をして欲しいのかな。どうしたら幸せになってくれるの。
なんでもしてあげるよ。なんでもあげるから、お願いだから教えて。
もう、分からないんだ。

僕の気持ちはどれだけ伝わっているのかな。

明日も明後日もどうか。



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