小説

□スノーライフ
2ページ/5ページ


「あ。ごめんなさい」

ぶつかった拍子に俺の手の中から教科書やらが落ちた。ぶつかった相手はそれを拾い始める。
あ。すいません。急いで拾おうとしたけれど、すでに彼女がすべて拾い終えていた。
顔を上げると、茶色の髪の毛が揺れた。それと同時に控えめな石鹸の香り。
多分、その時俺は『一目惚れ』ってのをしたんだと思う。

「…あの?」
「え。あっ、すいません…ありがとうございます」

上目遣いに不思議そうな顔をされる。心臓の動き、おかしい。
彼女から荷物を受け取ろうとした時に、一瞬けど手に触れた。びっくりして、パッと離す。
せっかく拾ってくれったっていうのに、全部落としてしまった。
恥ずかしさで顔を赤らめて「す、すいません…」と誤魔化すように言いながら拾い上げようとすると、頭上で笑い声がした。
見上げる前に、彼女は俺の目の前にしゃがみこむ。

「あ…拾わなくていいです」
「いえいえ。私が悪いから!1組の飯島 恭介(イイジマ キョウスケ)くんだよね?私、4組の砂賀 香澄(サガ カスミ)って言うの。同じ学年なんだから敬語はやめてね?」

なんだかよく喋る人だった。というか、俺って他クラスの人にまで名前知られるほど有名じゃないと思ってたけど、世の中には物知りな人がいるもんなんだな。
すべて拾い終えるのと同時に、彼女の声は止んだ。ギュっと胸に俺の教科書なんかを抱いて俯いている。
「あ、あの…?」声をかけると、彼女は勢いよく顔をあげる。その顔は、なんだか真っ赤に染まっている。

「と、ととと友達になってくれませんかッ?!」
「とも、だち?え。あ、はい」

ほ、本当ッ?!嬉しい、ありがとう!満面の笑みを浮かべてピョコピョコと跳ねる。
それから思い出したように、俺の教科書を押し付けて「授業始まっちゃうからまたね!」と言って走り去っていった。
一体、なんなんだ…。

「キョースケ?何お前。キモー」

いつの間にか横には、幼馴染の賢也がいた。
うるせぇな。と一言行ってから、俺は足早に歩き出す。後ろでは置いてけぼりになった賢也が喚いていた。
こんなニヤケた顔、誰にも見せれるわけねぇだろうが。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ