小説

□奏
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私は最近、彼を意識している。

『私』とは私自身、高校2年の栗原 音歌(クリハラ オトカ)のことだ。
『彼』と言うのは私と同じクラスの宮内 奏真(ミヤウチ ソウマ)のことだ。

意識と言っても恋愛感情を抱いたわけでは無い。
はっきりと言ったら──ライバル意識と言うのが的確だろう。

彼とは隣の席になった。
その時に私が彼について知っている知識は『サッカー部』ぐらいのものだった。
頭の良さも、彼がまわりにどう思われているかも、興味は無かった。
そのせいか、なんなのか。
私と彼が交わす会話と言ったら、消しゴムなんかを落としたときのお礼とその返しくらいのもんだった。

そんな彼を意識するきっかけとなったのは、何日か前のある授業でのことだった(なんの授業だったかは覚えていない)
彼が教科書を忘れたので、一緒に見ていたのだ。
その時に、たまたま視界に入った指。
太陽の光で焼けた指は、ゴツゴツとした武骨さは無くて、長く細く華奢な指だった。
誰かに似てる。そう思った。
誰だっけ、誰だっけ。思い出そうとして眺めていると、さすがに相手も気持ち悪がっていた。

「あ…ごめん」

相手に聞こえる程度に謝る。
彼は、不審がる目つきのままだった。

気まずいなぁ…。まぁ、私が悪いんだけど。

その時は、はっきりとしたライバル意識は芽生えなかった。

本当に、ただのきっかけだったのだ。
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