微熱

□微熱・2
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巧の、熱のせいで熱い身体や吐息や、潤んだ瞳や、薄桃色の唇がかさついていたのを思い出す。


熱い舌や口中を思い出す。


我儘を言って、それが甘えている様で可愛らしいと思った。
かすれた声で、名を呼ばれた。


巧が眠ってからしばらく、整った巧の顔を見ていた。

切れ上がった目尻、長い睫毛、形の良い唇。

柔らかな髪の毛を撫でると、さらさらと指の間からこぼれた。

可愛くて綺麗で、愛しいと思った。

巧の母と青波が買い物から戻って来たので、もう一度巧の髪に触れて、階下に降りた。

お茶を頂いて、少し青波と話して、それから巧の家を出た。


家に帰ってからも、巧の全部が頭から離れなくて、勉強も手に付かずに、深夜までぼぅっと起きていた。


そして、ぞくりと背中に寒気が走った。

見事に伝染った。

次の朝には、自分が病人だった。


『明日にはお前に投げるからな。待ってろよ』

巧が言っていたのに。
本当にいろんな意味で益々…欲求不満だ。

学校帰り、巧が見舞いにやって来た。

「オトムライが怒ってたぜ。バッテリーが風邪ひくのも一緒でどうする!だってさ」

巧は何故だか楽し気な風に言ってから、おれの額に手を当てた。
何で嬉しそうなんだか?
こいつの事は、まだまだ解らない。

「…おれの風邪がさ、伝染ったんだよな?」
「間違いなく、そうじゃろな…」
「…ベロチューしたもんな…怒ってるか?」

怒ってやしないけど、だから嬉しそうなのか?
やっぱり…可愛いよなぁ。

「今日は吉貞に投げたんだ」
「そうか…」
「それで帰りにあいつ、『何で原田の見舞いに行ったくらいで永倉はもろに風邪もらっとるんじゃ?あのガタイで虚弱児か!』つーからさ…」

巧がニヤッと笑う。

「ちゅうしたから…って言っといたぜ」

思わずガバッと起き上がり、巧の肩を掴む。

「なっ…ばか!お前!」
「うっそ!」
「…は?」

呆気に取られていると、巧はいきなりキスしてきた。

ちゅっと音を立てて唇を離し、またニヤリと笑う。

「おれ、欲求不満だから早く治せよな!」

お前もいろんな意味で欲求不満なのか?
治ったら、もう止まらないぞ、おれはきっと。

力が抜けてベッドに倒れ込むと、おれに布団を掛け直して、巧はじゃあな…と部屋を出ていった。

覚悟しとけよ、巧。
いろんな意味で…。

思いながらゆっくりと、おれは目を閉じた。


―終わり―


  *:・゜'☆ *:・゜'☆ *:・゜'☆風邪ひき豪巧。おまけです。
 

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