微熱

□微熱
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ゆっくりと重たい瞼をひらく。
どれ程眠ったのか、今は夕刻なのか早朝なのか。
引かれたカーテンからは淡い陽射しが漏れている。

ゆらゆらと揺れる感覚で重い頭を巡らせる。

「目ぇ覚めたか?」

聞き慣れた声がする。
薄暗い部屋の中で、聞き慣れた、優しい声がする。

「・・・ごう」

名を呼んで、咳込んだ。
大きな身体が椅子から立ち上がり、側に来て巧の背中を擦る。

「大丈夫か?」
「・・・うん。サンキュ」

傍らに腰掛けて、覗き込んでくる豪の瞳も優しくて、巧は起き上がるとその肩にそっと額をつけた。

「巧・・・起きんでええから。横になっとけ」
「・・・・嫌だ」

すりすりと肩に顔をうずめて、それから身体の力を抜いて豪の体に寄り掛かる。

また、咳込む。
今度は豪は巧の正面に向き直して、そっと抱き込むようにしながら巧の背中を擦る。

「あっつい・・・」
「まだ熱下がらんか?」

巧は豪の胸にもたれて、豪の声を聞く。
いつもより低く響いて聞こえる。

それがとても心地いい。

こんな風に誰かにもたれかかっているなんて、以前はとても嫌だったのに。
巧の心も、身体も、それをとても疎んでいたのに。


いつまでも続く熱のせいだ。
思考する事を阻んで、理性を奪って。
だからこうして、巧は豪の体に全て預ける。

「お前、1年に一回くらいはどかんと具合悪くなるな…」

緩く包むように抱きながら、豪は巧の髪をさらりと撫でる。

心地いい。それがとても。
巧は腕を伸ばして、豪の背に腕をまわす。

このまま。
このままずっと。
こうしていたら溶け合って、ひとつになってしまえたらどんなにいいだろう。

「…たくみ」

豪の声が、巧の鼓膜に低く響く。
いつまでも続く熱のせいで、何も考えられない。

豪の事しか考えられない。



コンコン―

唐突にドアをノックする音が響く。
慌てて豪は巧から身体を離す。

ドアが開いて、青波が顔を覗かせた。
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