恋の季節の1ページ

□2007年のサンゾロ
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『浅い眠り』



夜明けに目が覚めた。
熟睡した充実感がなくて、身体がだるい。

「まだ5時前か…」

最近、眠りが浅いのは、暑さのせいじゃない。
原因は判ってる。
それを認めたくは、ないけど。

布団に大の字に転がってみた。
拡げた右腕に、柔らかい温もりは触れない。あるのは、夏の熱気を帯びた生ぬるい布団の感触だけ。

決して広くない部屋も、小さな布団も、何だか果てしなく思えた。

「ガキじゃあるめぇし」

側に温もりがないだけで、安心して眠れないなんて。

側に居たら、それはそれで暑苦しいし、鬱陶しいのに。

タイマーで切れてたエアコンを付けなおし、体勢を整えてみたけれど。
本格的に目が冴えてきて、ついに携帯に手を伸ばした。

『馬鹿』

ただそれだけ、アイツにメールを送った。

会いたいとか淋しいとか早く帰ってこいとか。
そんなアイツが喜ぶことなんか言ってやらねぇ。

俺はただ、この浅い眠りから解放されたいだけだ。
必ず起こしてくれる、正解な目覚まし時計が、すぐ側に必要なだけだ。
俺の目覚ましのくせに、手元にねぇのが、頭にくる。


…だから、俺の満足するような返事がなけりゃ、しばらく電話には出ねぇことにしよう。


「目ぇ覚めたし、汗かいたし、風呂でも入るか」

そうして寝起きのもの淋しさをシャワーで洗い流して。俺はアイツの居ない日常に戻って行った。
メールを送ったこともすっかり忘れて。


『もしもしゾロ!?ごめん、俺、何かした?!』

数時間後、アイツからの電話。その慌てた声で、思い出した。

忘れてたから、電話に出ちまったじゃねーか。

(しばらくヤキモキさせてやろうと、思ってたのに)









ワガママ毬藻の駆け引き
2009.07.10
2009.07.29改

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