恋の季節の1ページ

□2007年のサンゾロ
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『甘いキスの代償』



昨夜から痛みだしたとこが、寝てる間に更に痛みを増した。

ズキズキと脳天に自己主張してくる痛み。耐えかねて俺は起き出した。


寝起きと痛みでボンヤリする頭で向かうのは、キッチン。

「お、早ぇな。何か飲むか?」

コックの馬鹿話に付き合ってれば、ちょっとは気が紛れるかと思ったが。

「……」

うっとおしい痛みは、しゃべるのも億劫にさせる。
俺は黙って頷いた。

そんな俺をコックはまだ寝ボケてると思ってんだろう。
苦笑ひとつ、アイスコーヒーを出してくれる。


が、アイスコーヒーをくちに含んだ瞬間、走る激痛。

「痛ぇ…」

俺は堪らずそこを押さえて呻き声をあげた。情けねぇ。

「どうした?」

気付いたコックが慌てて振り向く。痛むところを押さえる俺の手を退かせて、症状を確認する。

「お前、それ…」

心配そうだったコックの表情が、みるみる笑い顔に変わった。

「…プッ!」

しまいにゃ、吹き出す始末。
人が痛がってるってのに!

「……」

睨みつける俺の視線を気にもせず、コック目尻を下げた。

「アハハ、ゴメンゴメン。
…けど、可愛くて」

何が。
言い返したいが、痛くてしゃべる気にならねぇ。

「お前がホッペタ腫らしてんのが、可愛いくてさ。
それ、虫歯だろ?」

それ以外、考えようがねぇだろう。俺は黙って頷く。
ひとしきり笑い終えて、コックはよしよしと俺の頭を撫でた。

「冷てぇのは染みたな、ゴメンな。朝飯は粥にしてやるから」

優しい言葉と、優しい目線と、そして落とされる優しいキス…。


「チョッパーに診てもらえよ」

それだけ言うと、さっさと朝食の用意に戻るコック。
俺は恨めしい思いで、その背を見てた。


俺の歯が痛くなったのは、間違いなくコイツのせいだ。

コイツの甘い言葉と甘いキス。

甘いモンが虫歯の原因と言うなら、それ以外に俺が虫歯になった理由は考えられねぇ。





2007.09.03

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