恋の季節の1ページ

□2007年のサンゾロ
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いつも、してもらうばっかってのは、不公平な気がする。

俺だって、してやりたい。

せめて、アイツの誕生日の朝くらい。


そう思って早起きした、3月2日。

まだ薄暗い。
しばらく誰も起きてこねぇだろう。
しんとした船内の空気に安堵して、俺はキッチンへ向かった。



「お、珍しく早いな」

振り向いたコックは、少し驚いた様子。

「悪いか」

ついそう答えちまって、しまったと思った。
今日は、いつもみたいな返事はダメだ。

「いんや、全然。朝イチでお前の顔見れて、嬉しい」

俺の返事に、気分を害した様子も無いコック。
料理の手を止めて、満面の笑み。

「朝メシ、ちょっと待っててな」

朝メシは、いい。
それよりも――

早く、と思うが、身体が強張って上手く動かない。
それどころか、声までかすれそうだ。

いざ自分から、となると、こんなに緊張するもんか。

「どうかした?」

コックに言われて初めて、扉の前で突っ立ったままだったと気付いた。
怪訝そうな表情のコックが、近づいてくる。

ゆっくりと縮まる距離。
自分の心臓の音が、やけに大きく聞こえた。


これくらいでビビってて、大剣豪になれるかっての!

「おい、コック」

俺は勇気をふりしぼって、一歩を踏み出した。


…ちゅ

「おはよう、と、おめでとう…誕生日」


キスをしかけたのが先か、言ったのが先か。
頭ン中が真っ白で、自分でもわからねぇ。

おはようのキスを俺からするだけで、こんなにドキドキするもんだとは、思ってもみなかった。


顔が赤くなった。絶対、からかわれる。
恥ずかしくて悔しくて、俺はうつむいた。

が、いつもみてぇに「赤くなって、可愛い」なんて言葉が降ってくる様子は無い。
不思議に思って顔を上げれば。

同じように顔を真っ赤にしたコックと目が合った。


「あ、おはよう…と、ありがとう」


『お互い、意外だった』








2007.06.23サルベージ

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