恋の季節の1ページ

□2007年のサンゾロ
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『Rebirth』


明日になれば、明日は今日に、今日は昨日になる。
それの繰り返しが毎日。

けど、明日はいつもの明日じゃねぇ気がする、年の暮れ。

子供の頃から、そう意識付けられて来たせいか。
不思議と今日と明日が遠くて、繋がらない。
まるで生まれ変わる感覚の、明日が来る。


もし、皆が――生命あるもの全てが、同じく生まれ変わると思う日ならば。
その瞬間は、誰も悲しい思いをしなければいいのに。

そんなことを思ったりする――大晦日。


「今日はおとなしいな、お前」

声をかけられて、顔をあげた。

例によって、大量の洗い物に埋もれていたコック。
俺が考えに耽ってる間に片付いたらしく、もう洗い物は残ってなかった。

「年の暮れは妙な気分になる」

騒ぎ疲れた皆は、とっくに休んでる。この静かな夜が更に、気持ちを透明にしていく。

「そーか。行く年を惜しむってヤツ?珍しくしんみりしてっから、心配した」

コックは笑って、グラスと酒瓶を出してきた。

「飲みなおそうぜ。ふたりきりで、年越し」

いつものように、綺麗に盛付けられたツマミも添えられて。
まるで普段と変わらねぇ晩酌。

コックこそ、年がら年中、変わらぬ今日と明日を迎える人間だろう。

それが幸か不幸かは、コックが決めることだけど。


世界中の生命すべてが、幸せだと思う一瞬があればいいと、夢を見た。
せっかくなら、それがこの、まるで生まれ変わる感覚の、今日と明日の間なら、良いのにと思った。

そう思って、滑り出した疑問が声に出た。

「お前、いま、幸せか?」

コックはシバシバと数回、目を瞬かせてから、微かに笑った。

「もちろん」

あけましておめでとう、の代わりにそれは、反則だろう。
大好きだ、馬鹿野郎。

とか何とか色々言いながら、コックは俺の手を握った。

「クソ幸せ、真っ只中」

赤く染まったコックの顔が近づいてきて、俺は目を閉じた。

みんな幸せだと思うか?
そう出かかった言葉は、唇を塞がれて飲み込んだ。


目前の、世界中の生命代表が、幸せだと言っている。

それ以上望むのは、欲張り過ぎだろうか。





幸せの定義は曖昧すぎて
その温もりで全て忘れてしまう
2009.07.31

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