恋の季節の1ページ

□2007年のサンゾロ
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『GAP』



特別だと言う日も、何かの記念らしい日も、毎日変わらず、夜が明け陽が沈む。

今日が特別だとしても、海はシケるし、海軍も海賊も襲ってくるし、俺は立ち止まるワケにはいかねぇ。

うまく言えねぇが、あー何だ。

もしも俺に特別な記念日があるなら、それは、俺が世界一になったその瞬間。

その日、きっと俺の世界が変わる。それ以上、特別な日はあり得ねぇと思う。

だから、

「誕生日、何が欲しい?何が食べたい?特別だし張り切るぜ」

というコックの笑顔に

「どうでもいい」

と返した。
コックの言葉と俺の言葉の温度差が、間の空気を冷やす。
コックは眉をひそめて、煙草に火をつけた。

「何、それ」

何、と言われても。

「俺に祝われたくねぇの?」

記憶にもない俺が生まれたらしい、というだけの日を、どうしてお前が祝いたい?

「人の厚意を無駄に…あ、お前俺のこと嫌いなワケ?」

挙げ句にはそう来たか。

「いや、好きだ。
お前こそ、何でそんなムキになる必要があるんだ」

目を丸くして、くちをポカンと開けたコック。拍子に煙草がポタリと落ちた。

「……!!あ、あちちっ」

慌てて煙草をもみ消し、俺を見たコックは。

「あ、あの、俺が祝いたいの。お前の誕生日」

一瞬見せた不機嫌そうな表情はどこへやら。ニコニコと弛んだ頬が真っ赤だった。

「そりゃ、自己満足か」

「うわ、酷ぇ言い方。祝わせてくれても良いじゃん」

好きな人の、大事な人の、生まれた日だから。
祝わなきゃバチが当たる。

だからちゃんと祝わせて、とコックは懇願するように言った。

「お前が満足するようにやればいい。俺は知らねぇ」

「了解。真心込めて祝わせていただだきます」

コックは恭しく跪き、俺の手にキスをした。



俺の誕生日だろうが、普通の日だろうが、何も変わりはねぇ。

俺がいて、コックがいて。
必死に俺に向かってくるコックを、甘やかしてやる。
そんな変わらぬ日常で、良いと思う。






価値観の違いと戦う料理人
その差も違いもきっと些細な。2009.07.29

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