恋の季節の1ページ

□2007年のサンゾロ
11ページ/13ページ



『Love is magic!!』


「俺、魔法使えんの」

唐突に、サンジが言った。

「…ふぅん」

一瞬、無視するべきか悩んで、小さく相槌を打ってやった。
甘いな、俺は。

この後、下らない話になったら無視しよう。
晩酌のツマミに、不味い話はごめんだ。

「…って言ったら、信じる?」

無視決定。

夜中のキッチンで、魔法使いの衣装に身を包んだサンジ。
振るのはフライパンじゃなくて魔法の杖。
食材はひとりでに動きだして、あっという間に今日のメニューが出来上がる。

まるで絵本の1ページのような光景。

ちょっぴり脳裏に浮かんでしまった映像を、慌てて消して。
俺は酒瓶に手を伸ばす。

「聞いてる?」

しかし目前の酒瓶は、サンジの白い指がさらって行って。俺の手は宙を掴んだ。

「誰が?返せ」

「お前しかいねーだろ。俺はお前に話かけてんだ。てかお前のじゃねぇ、これは」

話を聞かなきゃ飲ませてやらねぇ、って魂胆か。

「…仕方ねぇな。何の話だ?」

「仕方ねぇ、って…。まぁいいけどさ。俺が魔法…」

「別の話なら聞いてやる」

「ケチ藻。ちょっとぐらい聞いてくれてもいいのに」

「手品は魔法じゃねぇ、って常識が通用するなら、聞いてやらなくもねぇが」

昼間、サンジが衝動買いしてた手品セット。隠し持てば良いものを、置いてあるのが丸見えだった。

「……!!」

まだ何か言ってくるかと構えたけれど、コックはうなだれて、くるりと背を向けた。

言い過ぎたか。
予想外の落ち込み具合に、冷たすぎたかなと反省した。つくづく甘い、俺。

「アホコックが。手品見てって言やぁいいのに」

「じゃあ手品見て」

声をかけた瞬間、サンジは嬉しそうに振り向いた。

「…仕方ねぇな」



コックの魔法。
使えるとうそぶかなくとも、サンジの料理は、まるで魔法だと思っている。

それに。
手品じゃねぇ料理とも別の魔法を、とっくの昔にかけられてる

…気がした。






まるで恋は魔法とは、言い得て2009.07.29

次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ