恋の季節の1ページ

□2007年のサンゾロ
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『愛してるは言わない』




「腹減った」

食欲の秋とは、よく言ったもんだ。本当に不思議と腹が減る。数時間前に晩飯を食ったのに。

「良く食うなぁ…。もう、成長期終わっただろう」

エンゲル係数上がっちまうな。食うなら酒控えろよ。太っちまうぞ。

小言をくれながらも、サンジは席を立った。腕を捲り、エプロンを手に取る。

「何がいい?あっさり系?ガッツリ食うの?」

冷蔵庫の中身は頭に入ってるらしいサンジは、ちょっと首を傾げて、いくつかメニューを挙げてくる。

「何でもいい」

「何でもいいって、作り甲斐ねぇなぁ。
『サンジ君の作ったアレが食べたい、愛してる』
ぐらい言ってくれたら、超張り切って作んのに」

言いながらも、サンジはもうすでに料理を始めている。

「そこで愛してる、は要らねぇと思うが」

君付けで呼ぶのも気持ち悪ぃ。

「馬鹿、関係大有りだ。
愛が大事な調味料なんだ。だから愛してるって言って」

料理の手を止めて振り向いたサンジは、乙女チックなお願いのポーズで、俺を見た。
愛の言葉を期待してか、その目はキラキラしている。
気持ち悪ぃから、それは止せ。

「阿呆か。お前の料理は何でも美味ぇから、何でもいいんだよ…で、文句あるか」

「ありません」

案の定、サンジはへたり、と笑って答えた。
料理に戻ったその背中が、上機嫌だ。分かり易いヤツ。

サンジにとって、俺からの料理の賛辞は、愛の言葉と同等らしい。いつか言われた。

「あぁ、あとデザートも」

踊るようにフライパンを振るうその背中に、追加注文。

「デザート?何がいいの?」

秋は、本当に腹が減る。
食欲が充たされたら、きっと、別腹で甘いヤツが欲しくなる。

「…お前。」

甘いキスと、濃い愛を。

数瞬間を置いて、ガチャンと皿の割れた音がした。
本当、分かり易いヤツ。

俺は笑いを堪えながら思った。
サンジの作る料理は、俺にとっちゃ愛そのものだなと。




けれど素直な愛情表現。
2009.07.26

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