恋の季節の1ページ

□2008年のサンゾロ
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『その場所』



学園祭が、ある。
きっと何処の高校もやるんだろう、ささやかな一大行事。

授業が終われば、準備やら練習やらに奔走する。非日常な学校と連帯感。

共同作業は苦手だけど、この雰囲気は嫌いじゃない。

(学園祭の間は授業休みだし)


俺たちのクラスは、舞台演劇だった。
台本を、クラスのヤツが書いてきて、ホームルームで役割を決めた。

クラス内で俺は影が薄いし、人前に出てどうこう、ってのは好きじゃない。
俺は裏方の、力仕事と照明係で妥当だと思った。

目立ちたがり屋で、やっぱり目立つサンジは、皆に推されて、主役だ。それも妥当だろう。


内容は、オリジナルの、幻想的な恋物語。

(桃太郎とかにすりゃあ、良かったのに)

照明で主役を追っかけながら、俺は何とも言えない気持ちになった。

皆がサンジを見ている。
サンジは、劇のヒロインと向き合ってる。
俺は暗がりから、それを照らすだけ。

ただスポットライトを浴びるサンジが、羨ましかった。
いや、自分がそこに立ちたいんじゃない。

八方美人で、お人好しのサンジが、これ以上人気者になって、俺だけとつるまない日がくるのか。

そう思ったら、淋しかった。
何と言う感情だろうか。
まるで置いてけぼりを食らったみてぇな、感じ。


俺の役割は主役を照らすだけ。サンジを照らすだけ。簡単だ。
懸命にサンジを追いかけて照らしてる間に、劇は終わった。

けれどアイツは劇が終わった瞬間、真っ先に俺を見上げた。
光と拍手の渦の真っ只中から、暗がりの中の俺を。

…少し、嬉しかった。


――…


「カッコ良かったろ、俺」

「言ってろ、馬鹿」

皆の輪の中から、サンジはすぐに出てきて、俺の隣に立った。
そうだ、サンジが其処にいないと、落ち着かない。

俺は何だか安堵して、この内心がバレないように、他所を向いた。

他所を向いてても、別の場所に立ってても、きっとすぐ側に来て、明るい場所へ連れ出してくれると、思って。





――10月、秋晴れの学園祭。





自分だけが届く場所に居て
それはきっと独占欲

2009.10.25 Renew

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