恋の季節の1ページ

□2008年のサンゾロ
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『織姫の憂鬱』



せっかくだから短冊を書こうと言われて、俺は露骨に嫌な顔をしてやった。
面倒くせぇよ。

願いを書いて叶うなら、苦労はねぇし、いざ書く願い事も特にない。

けれどそれでもサンジが書くとダダをこねたので、付き合った。


――この地方では七夕の祭は、7月じゃなくて8月にある。

その七夕の祭が今日で、俺はサンジとその祭に来ていた。

未だ熱気の冷めきらぬ夕刻、集まった人の熱気が、暑さを倍増させる。


「なぁゾロ。究極の選択なんだけど」

短冊を選びながら、唐突にサンジが言い出した。

「年に1度しか会えないけど、愛し合ってる」

七夕の話か?

「それとも、毎日会えるけど、片想い」

七夕の話じゃねぇのか?

「どっちがいい?」

「…はぁ?」

何を突然。
いつもいきなり、ワケのわからんことを言いだすヤツだけど。

「俺はさ、俺が織姫だったら、やっぱり年に1回しか会えなくても、両想いがいいなぁ」

「はぁ」

お前が織姫かよ。

「ゾロはどう?」

「…さぁ」

想像したことねぇし。
けど、会えねぇのも、想いが通じねぇのも嫌だと思う。

そう答えたら、そうだな、と短い返事が返ってきて、その話は終わった。


何を書こうか考えあぐねて、何とはなしに、サンジの手元の短冊を見たら。

『想いが叶いますように』

と。
そこで合点が行った。

あ、コイツ片想いしてんのか。
それであの質問とこの短冊か。

相手は誰だか知らねぇが、一番のダチの片想いだ。
応援してやるさ。

『頑張れ』

そう書いて、すぐ側に吊るしてやった。




――8月、七夕祭。







現さずには居らない想いがある
2009.07.05

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