恋の季節の1ページ

□2008年のサンゾロ
13ページ/13ページ


『また明日』



隣のサンジを見た。
目が赤い。

涙もろくて、感情的になりやすいコイツのことだ。
女子たちが泣いてるのに、もらい泣きでもしたんだろう。

けれど暇だ。退屈だ。
長々と堅苦しい話が、頭の上を通りすぎて行く。

「お前、また鼻血出せよ」

隣のサンジにコッソリ言った。

「何で」

「暇だ、外に出てぇ」

「我慢しろよ」

呆れた様子のサンジ。
俺はその鼻っ柱を、思い切りつねり上げた。

「ぶっ」

悪ぃ、許せ、耐え切れん。




「お前、信じらんねー!」

落ち着いたらしいサンジが、けれどハンカチで鼻を押さえたまま、目を吊り上げた。

その目は、まだ赤い。

「悪ぃ、ごめん」

まさか本当に、あれくらいで鼻血が出るとは。しかも結構な量だった。

「けど、おかげで一緒に抜け出せただろ」

「俺は別に…まぁ、いいけど」

ひとりでサボっても暇なんだ。
それに隣でメソメソしてられるのも、具合が悪ぃ。

「サボってどーすんだ」

「別に。…終わるまで、何か話でもしとこうぜ」

俺はいつもと変わらないつもりだった。
卒業式だからって、何も変わらない日々の中の1日だと。

「俺は…卒業したくねーなぁ」

サンジは違ったらしい。
言ったきり黙って俯いた。

「何で?」

しばらく待って、聞き返した。
俺は堅苦しい高校を卒業できるのが、嬉しい。

「だって、当たり前の毎日が、当たり前じゃなくなっちまう。
お前と毎日会えねぇのも、心配だし嫌だし」

何だ、そんなこと。

「じゃ、また明日」

「?」

「毎日そう言やぁ、毎日会えるだろ。
ああ、そう言えば俺も、毎日お前の弁当食えなくなるのは、嫌だな」

毎日弁当と晩飯作りに来い。
そう言ったら、サンジはやっと笑った。

卒業して、肩書きとか環境は、変わるけれど。
俺とサンジは、卒業しても俺とサンジだ。
それで良いと思ってる。

だから、当たり前のように俺は言う。また、明日。






――3月、卒業。




終わりは始まり
2009.10.25 Renew

前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ