恋の季節の1ページ

□2008年のサンゾロ
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『家族ごっこ』



「クリスマスってさ、外国じゃ家族で厳かに過ごすもんなんだってな」

動かす手は休めずに、サンジが言った。

「ふーん」

「この国だけだろ、カップルのイベントになってんのは」

じゃ、そこに居るお前は何だ。
クリスマスにうちの台所に立つお前は、何だ。
家族でも、勿論恋人でもない。

「だから何だ」

「どうせお前『クリスマスなんか、どうでもいい』だろ?」

「うん」

子供の頃は、楽しみにしてた。いつからだろうか、クリスマスが普通の日と変わらない日になったのは。

多分、母親が死んで、父親の仕事が忙しくなって。それからだろうか。

「俺もクリスマスだからって、特別することねーしさ」

サンジは喋り続けながらも、手は休めない。器用なヤツ。

「でも世間はクリスマスって、はしゃいでんの。それって癪じゃん」

いい匂いがしてきた。
つられて腹がきゅうっと鳴る。

「だから、同じく予定のないお前と、厳かにクリスマス過ごそうかなと思ったワケよ」

サンジも片親で、彼女もいないし、暇なんだろう。

「淋しい俺とお前と、今日は家族のつもりでさ」

「…うん」

たまには、いいかもしれない。

ご馳走を用意してくれる、記憶の中の母親。
その背中とサンジの背中と、重ねて思った。

「…」

…ありがとう

感謝の気持ちを、声には出さずに呟いた。
母親に対してか、サンジに対してか、その両方か。




――12月、クリスマス。







まるで母、もしくは兄、
けれど友、そしてこれからは
2009.07.09

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