海賊

□卑怯者の選択【12n】
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――ある日。

いつものように平和な昼下がりだった。

船尾で騒ぎはじめたルフィたちを避けて、俺は甲板で横になっていた。
少し蒸し暑いのを除けば、昼寝日和だ。

ウトウトし始めた頃、がっしゃん、と、ひどい音がした。
一気に意識が覚醒する。
音の出所は、キッチンか。

今までそんなひどい音が、キッチンから聞こえたことなんて、一度も
――ルフィのツマミ食いが発見された時を除いて、
なかったから。

心地よい眠りを妨げられたイライラよりも、コックが心配になって、飛び起きた。



「おい?」

キッチンの扉を開けると同時に、ふわりとスープの良い香りが鼻腔をくすぐった。

床に転がった鍋と、野菜、割れた皿の破片。
どういう状況でそうなったのかはわからねェが、コックが鍋をひっくり返したのは、一目瞭然だった。

「いや…」

言葉を濁したコックは、バツの悪そうな表情。
床を片付ける手は休めず、振り返った。

「手伝うか」

「いや、いい」

近寄ってみて、コックの左腕が赤くなっているのに、気が付いた。
そういえば、今日はスーツ着てなかったな…

「お前、スープかぶったんじゃねぇのか」

「かかったけど、大したことねぇさ」

「冷やすのが先だろうが」

馬鹿、とコックの肩を掴んだと同時に、後ろで小さく悲鳴があがった。

「サンジくん、大丈夫!?」

音を聞きつけて、ナミも様子を見に来たんだろう。

「大丈夫で…」

「ナミ、チョッパー呼んで来てくれ。火傷だ」

言いかけたコックの言葉を遮って、俺はナミを促す。

「わかったわ」

俺はシンクにコックの腕を突っ込んで、床の片付けをしてやることにした。

「ゾロ、俺がやるから」

左腕を水に漬けたまま、コックが気まずそうに言った。

「黙って冷やしてろ」

「でも…」

「火傷は先に冷すって、料理人の間じゃ常識じゃねェのかよ」

コックは何か言いたそうに、不満げに唇を開いた。
が、折りよくキッチンに駆け込んできたチョッパーに言葉を遮られる。

「サンジ!大丈夫か!」

心配性のチョッパーが慌てて治療を始めたから、コックはそれ以上、何も言わなかった。


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